はじめに 「ミームコイン」の登場
近年、暗号資産(仮想通貨)市場では、特定の人物やコミュニティをテーマにした「ミームコイン」と呼ばれるトークンが数多く登場しています。昨今では、伝説ともなっているネットミームの野獣先輩をモチーフとした、「114514コイン」が急騰したことが話題にもなりました。
そして、今、日本でも話題となって、一種の炎上になっているのが「SANAE TOKEN」(以下「サナエトークン」と言います。)です。
サナエトークンは、政治家の名前を冠したトークンとしてSNSや動画配信などで紹介され、大きな注目を集めました。しかし、その後、当該政治家本人が関与を否定したことで、法的な問題が指摘される状況となっています。
本稿では、いわゆるミームコインに潜む法的な論点から、現行法の穴まで法律の観点から整理します。
なお、本稿は、関係者に関する批判や不確定な事実の指摘、不要な煽りなどは行わず、あくまで批評に当たっての、概念の整理という趣旨の投稿になります。
1 「サナエトークン」の炎上の概要と経緯
サナエトークンは、Solana系のブロックチェーン上で発行されたとされるトークンであり、いわゆるミームコインに近い性質を持つとされています。
ミームコインとは、特定のインターネット文化や人物、コミュニティなどをテーマとして発行される暗号資産の一種です。代表的な例としては、トランプコインなどが知られていますし、一部の日本のネット界隈では上記の通り、野獣先輩をモチーフにした「114514コイン」で一気にミームコインの知名度が広がりました。
今回のサナエトークンについては、
・政治家の名前を冠したトークンとして紹介された
・拡散力のあるインフルエンサーを中心にSNSや動画などで拡散された
・仮想通貨コミュニティのプロジェクトとして説明された
といった経緯があります。
しかし、その後、当該政治家本人が
「自分は関与していない」
旨を明確に発信したことから、トークンの位置付けや発行の目的について疑問が生じることとなりました。
この点が、単なるミームコインとは異なる大きな論点となっています。
2 そもそも「トークン」とは何か
近年、「トークン」という言葉が暗号資産(仮想通貨)に関連して頻繁に使われるようになっています。しかし、一般的な仮想通貨とトークンは、厳密には同じものではありません。
暗号資産の世界では、「コイン」と「トークン」という区別があります。ビットコインやイーサリアムのように、独自のブロックチェーンを持つ暗号資産は「コイン」と呼ばれます。一方、トークンは、そのブロックチェーンの仕組みを利用して発行されるデジタル資産です。
イメージとしては、スマートフォンのOS(iOSなど)の上でアプリが動く関係に近く、EthereumやSolanaのネットワーク上では、スマートコントラクトを利用して誰でも独自のトークンを発行することができます。
若干意味は異なってしまいますが、より分かりやすく、説明すると、スマホのなかで、Solanaというアプリストアがあって「サナエトークン」というアプリがあるというような関係です。ただし、これはあくまでわかりやすく、説明したのみで、厳密な説明は先の説明となります。
実は日本の法律ではコインとトークンは区別されていません。資金決済法では「暗号資産」という一つの概念で整理されています。そのため、コイン、トークン、ミームコインすべて、同一の概念として扱われる可能性があります。
3 法的な論点
サナエトークンについては、複数の法律的な論点が指摘されています。
(1) 資金決済法
日本では、暗号資産の取扱いについて、資金決済法が規制を設けています。暗号資産交換業を行う場合には、金融庁への登録が必要です。もし、実質的にトークン販売や交換サービスを提供していた場合には、無登録営業といった問題が生じる可能性があります。現在、「サナエトークン」に関する取引業を登録している業者は存在しないと発表されており、「サナエトークン」の資金決済法上位置づけについての解釈がその合法性についての重要な論点となってきます。そして、資金決済法の適用の対象となる場合には、トークンについての管理や顧客保護のなどの問題が生じます。これは発行元としての規制というイメージです。
https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency02/
(2) 詐欺・不当表示の問題
仮に
・政治家が関与している
・政治プロジェクトと関係がある
などと誤認させる形でトークン購入を誘導していた場合には、詐欺または不当表示の問題が生じる可能性があります。特に暗号資産は投機性が高く、価格変動も大きいため、誤認誘導がある場合には重大な問題となります。
ただし、一般的には、詐欺の立証は故意の立証がかなり困難であり、関係者が詐欺で立件される可能性は非常に低いと思われます。
(3) パブリシティ権・氏名権
著名人の氏名やイメージには、いわゆる「パブリシティ権」が認められるとされています。著名人の名前を無断で商業利用する場合には、
・不法行為
・差止請求
・損害賠償
の対象となる可能性があります。政治家であっても、経済的価値を持つ氏名の利用については、一定の法的保護が認められる可能性があります。
ただし、これはあくまで、民事上の規制になり、「パブリシティ権」の侵害が直ちに、刑事的な責任につながることはありません。
(4) 金融商品取引法の問題
流通に関与した関係者に対する法的な論点としては
・投資利益を強調
・価格上昇を期待させる勧誘
などが行われていた場合には、金融商品取引法上の投資勧誘に該当する可能性も議論されています。この場合、登録義務や説明義務などの問題が生じる可能性があります。
4 法律の穴
上記の通り、暗号資産の規制は、かなりざっくりと整理すると
発行元への規制は、登録の有無についてのみの規制
販売業者については説明義務の規制はあるが、販売業者に該当しないような、アフィリエイト行為については規制がない状況で、オンラインサロンやセミナーでの「紹介」については実効的な規制が及ばず暗号資産への投資トラブルが後を絶えない状況となっています。
また、販売元についての説明義務などが課されないことで、発行元の違法性が認められず、関与者を共同不法行為などの責任追及ができないことが多いという問題もあります。
例えば、発行元は海外に存在して、日本の法制上は責任追及が困難であり、訴訟するにしても相当な費用が掛かる状態、判決をとっても強制執行する手段がないなどの状況であるにも関わらず、サロンで商品を「紹介」していた人物には責任追及ができないという状況やそもそも発行元に責任が発生しないため紹介者も不問という状況が現行法では発生しています。
私の見解では、少なくとも、今回のサナエトークンの件は、関係者に対して、法的責任を追及したりされたりすることは、かなり厳しいと考えています。今回の件が仮に立件されたら、よほど問題のあるメッセージのやり取りが存在した、あるいは、法律を超えた力学が働いた可能性が高いです。
このようなことを言うと陰謀論者と批判があつまるかもしれませんが、その点についてはいずれ詳細に話す機会があればと思います。
5 今後の見通し
実は、暗号資産の規制については、数年前から法改正の観点から議論がされていました。私は、今回のサナエトークンの問題の炎上はについては、その議論を活発化させ、法改正と規制の強化を促進させるきっかけとなっていると考えております。もちろん、迅速な法整備が求められる分野ではありますが、暗号資産自体は、新たな取り引きの在り方を提供する側面もあり、いわゆるAV新法みたいに一部の価値観ありきの「ゴリ押し」で短期間のうちに法改正まで進むということはないようにしてもらいたいとは思うところです。
いずれにしても、暗号資産については、売りたいときに売れる状況のコインか、流通がロックされる可能性があるかなどは注意しなければ、大きな損失を生む側面もあるので投資対象としては慎重な判断が必要であるといえるでしょう。
