1 はじめに
2025年8月7日、アメリカのトランプ政権は日本に対し、15%の関税を新たに課すことを発表しました。この措置は、日本政府が以前に合意していた内容と異なり、既存の税率に一律で15%上乗せされた形となっています。政府は、従来の税率が15%未満の品目には税率が一律15%に引き上げられ、15%以上の品目には新たな関税が加算されないと説明していましたが、大統領令にはその内容が反映されておらず、日本に対しては一律で15%が上乗せされています。
自民党の小野寺政務調査会長は、これは日米合意に反しているとして、政府に速やかな修正をアメリカ側に求めるよう指示しました。石破首相も、アメリカ側に大統領令の修正を強く要請すると述べました。また、赤澤経済再生担当大臣は、訪米中に自動車関税引き下げを含めた日米合意の早期実行をアメリカ側に働きかけています。
そもそもの合意内容も、80兆円規模の『寄付』を限メリカにするという内容が盛り込まれており、減税の際にはあれだけ強調される財源の話もなく進められていることの意味が解りませんが(野党やマスコミもその点を言及しているところを少なくとも私は見ていません)、さらにこのようなトラブルまで生じるとはにわかに信じがたいです。
2 赤沢大臣の素人以下な対応からみる契約書の重要性
契約書は、企業間の取引や合意内容を正式に文書として確認するもので、契約内容の履行を保証するために不可欠です。書面により、双方の認識を一致させ、将来的なトラブルを防止する効果があります。契約書に記載される内容には、業務の範囲や料金、納期、責任の所在など、非常に多くの要素が含まれます。契約書がない、もしくは不十分な場合、双方の認識にズレが生じ、後に大きな紛争や金銭的損害を招くことになります。
例えば、今回のアメリカと日本の間での関税問題のように、書面での正式な合意がなければ、どちらか一方の解釈に依存することとなり、予期せぬ事態を招きかねません。関税率の引き上げに関する理解が異なった結果、日本は15%の上乗せ関税を不当に課せられることとなりました。このような事態は、契約書がきちんと交わされていれば防げた可能性が高いのです。
さらに、書面で契約内容を明確にしておくことで、合意内容に対する証拠を確保することができます。口頭での合意では後からどちらかがその内容を忘れてしまったり、解釈が異なったりする恐れがあるため、書面で記録することは非常に重要です。
とりわけ、当事者間において力関係の上下がある場合には、合意書がないと力関係が強い側の言い分で押し切られることが多く、今回のような日米間でのトラブルは、歴史上の経緯から事実上力関係が上のアメリカにさらなる譲歩を強いられるか向こうの言い分で押し切られることになるでしょう。
3 契約書の作成の際に、最低限必要な5つのこと
①契約の目的と範囲
契約書は、両者が何について合意しているのか、その目的と範囲を明確に記載する必要があります。特に複数の側面が関わる合意においては、双方が何を提供し、受け取るのか、どこまでが責任範囲なのかを明確にしないと後のトラブルに繋がります。必ず、目的物や業務の内容を特定できているか確認しましょう。
②価格と支払い条件
価格の設定、支払い方法、期日など、金銭に関する条件は契約書において最も重要な項目です。特に複数回の支払いがある場合や、支払い条件が変動する場合は、これを正確に記載することが必要です。
③期日や期間
目的物をいつ納品するのか、あるいは、業務の提供期間がいつまでなのかも必ず記載します。納期遅延や契約未履行に関する対策を講じておくことで、後の問題を未然に防ぐことができます。もし、厳密に決められないとしても、大まかな内容は定めないとトラブルになります。
④契約の解除や解約について
契約を途中で解除・解約できるかどうかを事前に定めることも非常に重要です。特に、業務の内容について成果が上がるか見通しが立てられないコンサルや広告契約などで、効果がないにも関わらず費用のみが発生して、契約も終了できないというような相談が非常に多いです。
⑤違反時の対応
契約に違反があった場合の対応方法や、ペナルティについての記載は必須です。特にビジネス契約においては、違約金や損害賠償の取り決めがなければ、法的な強制力を持たせることが難しくなります。特に、損害額が特定しづらい内容の取引の場合、事前に損害額を具体的にしておかないと契約違反しているにも関わらず損害賠償が認められないというようなことがあります。例えば、守秘義務違反の際の損害や競業避止義務違反の際の損害、営業損害などがこれに当たります。
4 弁護士が作成する書面と専門家でない人が作成する書面の違い
弁護士が作成する書面と、専門家でない人が作成する書面との違いは、その法的精度とリスク管理能力にあります。特に上記①や④については、専門的な記載がないと契約書としての意味がなさない場合があります。
弁護士は、法律に基づく表現や条項に熟知しており、契約書の内容が法的に正確に反映できます。特に難解な法律用語や契約特有の条項についても、正確に記載し、後々の法的効力を確保します。専門家でない人が作成した書面は、こうした法的精度が欠けている可能性が高く、そのため後で問題が生じた場合に法的に無効とされる恐れがあります。
弁護士は契約書作成時にリスクを予測し、それに対処するための条項を盛り込むことができます。例えば、契約違反に対する対応方法や、損害賠償の範囲を明記することで、後々の紛争を予防します。専門家でない人が作成した書面には、こうした予防策が不十分なことが多く、契約履行の際に問題が発生しやすくなります。
弁護士が作成した書面には、法律的に強固な執行力があります。契約書が法的に有効であるため、もし相手方が契約違反をした場合、法的手続きに則った強制力を持って実行できます。一方で、専門家でない人が作成した書面には法的効力が弱く、紛争発生時に裁判所で通用しないリスクが高いです。
5 おわりに
今回の日米交渉は、様々な政治力学が働いてのこととは思いますが、少々目に余るものがあると思います。ただ、企業法務として、リスク管理をするうえでは非常に勉強となる事例です。弁護士費用について、無駄だとか高いとかいうような話もありますが、弁護士の関与で数百万、数億円単位の損害を防止できることもあります。
