
この記事の監修者
青山北町法律事務所 代表弁護士
松本 理平(まつもと りへい)
消費者詐欺分野で長年、詐欺業者と対峙をしてきました。消費者詐欺分野の類型や手口に精通しています。詐欺業者のウィークポイントや実態にも詳しく切り込みます。その他、全国ネットでのテレビなどコメンテーター等にてメディア露出多数
「副業詐欺に遭ったが、本当に返金できるのか」
この疑問に対して、最も説得力を持って答えられるのは、実際に裁判所が下した判決です。
このページで紹介する判例は、いずれも実際に副業詐欺の被害者への返金・損害賠償が認められた事案です。
特に以下の2つの判決は、副業詐欺の被害者にとって直接的な意味を持つ重要な先例です。
- 【判例①】東京地裁令和5年3月判決(woods株式会社事件)
「AI自動引き上げシステム」「写真・動画を送るだけで報酬が発生する」という虚偽の説明で高額サポートプランを購入させた副業詐欺について、不法行為による損害賠償が認められました。
さらに、業者が被害者に署名させた「清算条項付き解約合意書」について「被告らが責任追及されるのを免れようとするために形式的に作成させた書面に過ぎない」として無効とした重要な判断が示されました。
- 【判例②】東京地裁令和4年11月判決(フリックワーク事件)
「スマートフォンでスタンプを送る作業で収入を得られる」という副業紹介サービスについて、「LINEを使った勧誘も電話勧誘販売に当たる」という重要な認定がなされ、特商法上のクーリングオフが有効と判断され179万8000円の全額返還が命じられました。
この2つの判決が示す事実は、多くの副業詐欺被害者にとって直接関係するものです。
- 「LINEで勧誘されたからクーリングオフできないと業者に言われた」
- 「解約合意書にサインしてしまったから返金は無理だと思っていた」
こうした理由で返金を諦めていた方は、この記事を最後まで読んでください。
副業詐欺の被害回復は裁判まで行くことは珍しく、任意交渉で解決することがほとんどではあるものの、「自分のケースにも似た判例があった」という発見が、返金への第一歩になります。
目次
判例から読み取れる「返金が認められる3つのパターン」

副業詐欺の返金判例を見ていくと、返金が認められたケースには共通したパターンがあります。
個別の判例を解説する前に、この3つのパターンを整理します。
「自分のケースはどのパターンに当てはまるか」を意識しながら読み進めてください。
【パターン①】LINEを使った勧誘でもクーリングオフが認められる
副業詐欺の勧誘において、LINEは最も多用されるツールの一つです。業者側は「LINEでのやりとりは電話勧誘販売に当たらないのでクーリングオフはできない」と主張することがありますが、東京地裁令和4年11月のフリックワーク事件判決はこの主張を明確に退けました。
裁判所は「LINEによる勧誘行為も電話勧誘行為に当たる」と認定し、特商法上の業務提供誘引販売取引としてのクーリングオフを有効と判断しました。
被告は、LINEを併用して勧誘すれば電話勧誘販売に当たらないかのように主張するが、LINEによる勧誘行為も電話勧誘行為に当たる。また、原告はそもそも電話とLINEの双方で被告から勧誘を受けているので、LINEでの勧誘が電話勧誘行為に当たるか否かにかかわらず、被告からの勧誘は電話勧誘行為に当たる。したがって、原告は、特商法24条1項に基づき解除することができる。
東京地方裁判所令和3年(ワ)第30628号
このパターンが当てはまるケースの例としては
- SNSで副業の広告を見てLINEに登録し、LINEのやりとりを通じて契約した
- 「副業の案件がある」とLINEで誘導され、サポートプランや教材を購入した
- 電話とLINEの両方で勧誘を受けた
のようなことが相談事例からも想定されます。
【パターン②】不法行為・共同不法行為による損害賠償が認められた
副業詐欺において、「写真や動画を送るだけで報酬が発生する」「AIが自動で稼いでくれる」という虚偽の断定的な説明があった場合、その販売行為は不法行為(民法709条)・共同不法行為(民法719条1項)として損害賠償請求の根拠になります。
東京地裁令和5年3月のwoods株式会社事件では、被告会社および代表者個人が、虚偽の断定的説明でサポート費用等の名目で金員を詐取したとして、共同して欺罔行為により金員を騙取したものと認定され、連帯して損害賠償を支払うよう命じられました。
被告らは、原告らに対し、共同して欺罔行為により金員を騙取したものと認められ、他方、被告らと原告Bら5名との間の本件解約同意書の内容は、原告Bら5名からすれば、およそそのような合意をするとは考えられないものであって、被告らが原告Bら5名から責任追及されるのを免れようとするために形式的に作成させた書面に過ぎないというべきであり、被告らの清算条項の合意の主張は理由がないから、原告らの主位的請求は理由があるとして認容した事例。
東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
このパターンが当てはまるケースの例としては
- 「AI自動システムが稼いでくれる」「必ず収益が発生する」という説明があった
- 「写真・動画を送るだけ」「スタンプを送るだけ」という説明が実態と大きく乖離していた
のようなケースが相談事例からも想定されます
【パターン③】清算条項付き解約合意書を無効として全額返還が認められた
副業詐欺で特に重要な認定が、woods株式会社事件における清算条項の無効です。
業者は、返金を求める被害者に「解約合意書」に署名させ、「これ以上の請求はしない」という清算条項を盾に返金を拒否することがあります。
しかし裁判所は、このような解約合意書について以下のように判断し、清算条項の効力を否定しました。
本件解約同意書の内容は、原告Bら5名からすれば、およそそのような合意をするとは考えられないものであって、被告らが原告Bら5名から責任追及されるのを免れようとするために形式的に作成させた書面に過ぎないというべきであり、被告らの清算条項の合意の主張は理由がない。
東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
「すでに解約合意書にサインしてしまった」という状況でも、その合意書が詐欺的な状況下で作成されたものであれば無効とされる可能性があることを、この判例は示しています。
このパターンが当てはまるケースの例としては
- 返金を申し出たら「解約合意書」に署名するよう求められた
- 「これ以上の請求はしない」という文言の書類にサインしてしまった
- 「一部返金するから残りの請求権を放棄してほしい」という和解案を受け入れた
のようなケースが相談事例からも想定されます
「LINEだからクーリングオフできない」「解約合意書にサインしたから無理」という業者の主張は、法的に通用しない場合があることをこれらの判例は示しています。
【判例①】副業サポートプラン詐欺|不法行為・清算条項の無効(東京地裁令和5年3月)

- 事件名: 損害賠償請求事件
- 裁判所: 東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
事案の概要|「AI自動引き上げ」「写真・動画を送るだけ」という副業詐欺
被告会社(woods株式会社)は令和2年10月30日に設立され、副業サイト「FINE(以下「本件サイト」)」を運営していました。被告Aは同社の代表清算人です。
本件サイトは、以下のようなランディングページ・動画広告でSNSから集客を行っていました。
「家から出られない今だからこそ、みんなに内緒の秘密の稼ぎ方!」「自由な時間では1日・・・¥10,000を目指し、月収¥1,000,000は通過点」「やることは下記の3ステップ!Step1スマホ操作 撮影したモノを送信→Step2収益設定 その日の晩に 朝起きて→Step3収益発生」「まずは無料LINE登録してください!今すぐ値段を下げます」
東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
LINEに登録した被害者に対し、被告会社は「さっそく無料査定を行わせていただきます」などとして写真や動画の査定を促し、以下のようなメッセージを送信して信頼を構築しました。
「送信した写真や動画に広告がつき、この広告収益が今回の報酬となるのです。ここからが重要なポイントです!送信先のシステムにはAI(人工知能)を採用していますので、○○さまが今回送信したデータが自動的かつ優先的に引き上げられるためどんなものでもokなんです もちろんAIシステムは無料ですし知識も必要ありません」
東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
被害者が初期費用(7000円程度)を支払うと、被告会社担当者は「開始日の予約」と称して予約を入れ、高額サポートプランへの加入を勧誘しました。
裁判所の判断|欺罔行為による不法行為・共同不法行為の認定
裁判所は、被告会社および被告Aが原告ら被害者に対して虚偽の断定的な説明を行い、サポート費用等の名目で金員を詐取したことを認定し、不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
支払額・手数料・弁護士費用いずれも損害として認められています。
被告側(業者側)は次のように反論していますが、
「送信した写真や動画に広告がつき、この広告収益が今回の報酬となるのです。ここからが重要なポイントです!送信先のシステムにはAI(人工知能)を採用していますので、○○さまが今回送信したデータが自動的かつ優先的に引き上げられるためどんなものでもokなんです もちろんAIシステムは無料ですし知識も必要ありません」
東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
裁判所はこの被告側の主張を退け、被告会社のLPのヘッダに「FINE by Woods」と記載されていること、FINEの書籍には著者が被告会社であることや代表者が被告Aであること等が明記されていること、勧誘のラインには被告会社が運営するサイト名が明らかであることから、被告らの上記主張は採用することができないと判断しています。
清算条項の無効認定|この判例最大の注目ポイント
本件において最も重要な認定が、原告Bら5名との間で締結された「解約同意書」の清算条項を無効とした判断です。
被告側は、原告Bら5名が解約同意書を差し入れたことにより、被告会社は原告Bら5名に対し返金義務を負わないと主張しました。
解約同意書には「以後、被告に対して一切の債権債務がない旨及び今後の請求をしない旨等が記載されていた」とされています。
しかし裁判所はこの主張を以下のように退けました。
本件解約同意書の内容は、原告Bら5名からすれば、およそそのような合意をするとは考えられないものであって、被告らが原告Bら5名から責任追及されるのを免れようとするために形式的に作成させた書面に過ぎないというべきであり、被告らの清算条項の合意の主張は理由がない。
東京地方裁判所令和3年(ワ)第26660号
判決の結果
裁判所は原告らの主位的請求をすべて認容しました。
被告会社・被告Aは連帯して原告Bら10名(原告B〜原告L)に対して、各自2万円〜155万円の損害賠償を支払うよう命じられました。総額は約1000万円超に上ります。
この判例が示す重要なポイント
- 「AI自動引き上げ」という説明は断定的判断の提供・不実告知として問題になる
「AIシステムが自動で優先的に引き上げてくれる」「どんなものでもOK」という説明は、存在しない機能・収益を断定的に告げたものとして問題になりました。
「AIが稼いでくれる」「自動で収益が発生する」という説明がある副業商材は、このパターンに当てはまる可能性があります。
- 「窓口業務しかしていない」という業者側の抗弁は退けられた
被告会社は「勧誘はスキームを提供した業者が行ったものであり、自社はサポート窓口業務のみ」と主張しました。
しかし裁判所はサイト名・書籍・LINEアカウントとの関係から被告会社の関与を認定し、この主張を退けました。「自分たちは販売していない」という業者側の言い逃れが通用しないことを示しています。
- 「清算条項付き解約合意書にサインしても全額請求できる」
本判決最大の意義です。「一切の債権債務がない」「今後の請求はしない」という清算条項付きの解約合意書に署名した被害者についても、裁判所はその合意書を「責任追及されるのを免れようとするために形式的に作成させた書面」として無効と判断し、全額の損害賠償を認めました。
「解約合意書にサインしてしまったから返金は無理」という思い込みを覆す、実務上極めて重要な判断です。
弁護士からのアドバイス!
「返金してほしいと言ったら『一切の請求権を放棄する』という書面にサインするよう求められた」「断れない雰囲気でサインしてしまった」
そんな経験をした方がいます。
でも、この判決が示した通り、詐欺的な状況下で作成させられた清算条項付き解約合意書は無効とされる可能性があります。
「サインしたから終わり」という業者の主張は、法的に通用しない場合があります。諦める前に、まず専門家に確認してもらってください。
【判例②】「LINEを使った勧誘はクーリングオフできない」は嘘|業務提供誘引販売取引(東京地裁令和4年11月)

- 事件名: 契約金返還等請求事件
- 裁判所: 東京地方裁判所令和3年(ワ)第30628号
事案の概要|「スタンプを送るだけで稼げる」副業紹介サービス
被告(株式会社ワールドペイメントサービス)は、インターネット上で「フリックワーク」という副業を紹介する旨の広告を表示している会社です。
被告は、「スマートフォンを使ってスタンプを送る作業で収入を得ることができる」などと表示した副業紹介サイトを運営していました。原告Aはこのサイトにアクセスし、令和3年9月20日からユーザー名を「a」とする者(以下「a」という。)とLINEを通じてやりとりを行いました。
aから原告に対し、「本当に稼げる副業の案内を受け取り…下のボタンをタップ!」というメッセージが送られ、原告が表示部分をタップしたところ、aから「副業の作業内容から説明していきますね」として以下のようなメッセージが届きました。
「【1】LINEをダウンロード」「【2】スタンプ送信で報酬GET!10分程度でOK!」「【3】”1日”で20万円以上も可能です」
東京地方裁判所令和3年(ワ)第30628号
また、以下のようなメッセージも送信されました。
「作業した分だけきちんと【報酬が発生】します。」「1日20万円を即日獲得することだって可能です」「今月で月収30万以上稼げます」」
東京地方裁判所令和3年(ワ)第30628号
さらに、スタートアップサポートとして、Cと名乗る被告の担当者から原告に「女性のふりをしてLINEをする仕事」の説明が行われ、同プランに加入するために179万8000円を支払うよう求められました。
原告は同月24日に100万円、同月26日に79万8000円を振り込み支払いました。
その後、原告が「フリックワークプラス」の友達登録をし、LINEを使って「フリックワークプラス」とのやりとりを開始。
しかし「YYC」というマッチングサイトでのアカウント登録など、実際の仕事が提供されることはありませんでした。
令和3年10月5日付けで、原告はクーリングオフにより本件契約を解除し、179万8000円の返金を求める旨の通知書を被告に送付しました。
裁判所の判断|「LINEによる勧誘は電話勧誘販売に当たる」
本件の最大の争点は、原告が行ったクーリングオフの有効性です。
被告は「本件はLINEを使った通信販売であり電話勧誘販売には当たらないのでクーリングオフは適用されない」と主張しました。しかし裁判所は以下のように判断しました。
業務提供誘引販売取引への該当性
まず裁判所は、本件を特商法51条1項の「業務提供誘引販売取引」と認定しました。
被告が「スタンプを送るだけで収入を得られる」という副業を紹介し、その業務のためのサポート加入費用として179万8000円を支払わせた行為が、業務提供誘引販売取引に該当すると判断したのです。
「LINEによる勧誘も電話勧誘行為に当たる」という重要な認定
次に裁判所は、クーリングオフの適用について以下のように述べました。
被告は、LINEを併用して勧誘すれば電話勧誘販売に当たらないかのように主張するが、LINEによる勧誘行為も電話勧誘行為に当たる。また、原告はそもそも電話とLINEの双方で被告から勧誘を受けているので、LINEでの勧誘が電話勧誘行為に当たるか否かにかかわらず、被告からの勧誘は電話勧誘行為に当たる。したがって、原告は、特商法24条1項に基づき解除することができる。
東京地方裁判所令和3年(ワ)第30628号
クーリングオフの有効認定
また裁判所は、特商法58条1項(業務提供誘引販売取引のクーリングオフ)についても以下のように述べました。
被告は、エグゼクティブプランに加入して仕事をすれば利益が得られるなどと言って原告を誘引しており、本件は業務提供誘引販売取引に該当する。そして、原告に179万8000円の支払という負担をさせた上、エグゼクティブプランに加入した結果として、YYCという他の会社を紹介するという役務の提供に係るあっせんに係る取引をしており、業務提供誘引販売取引に該当する。したがって、原告は、特商法58条1項に基づき解除することができる。
東京地方裁判所令和3年(ワ)第30628号
これらの判断から裁判所は、令和3年10月5日付けの書面で行われたクーリングオフによる解除は有効であると認め、原告の請求を全額認容しました。
この判例が示す重要なポイント
- 「LINEを使った勧誘もクーリングオフできる」という明確な先例
副業詐欺の勧誘において、LINEは最も多用されるツールです。業者が「LINEでのやりとりは電話勧誘販売ではないのでクーリングオフできない」と主張することは、実務上非常に多く見られます。
しかし本判決は、LINEによる勧誘行為が電話勧誘行為に当たると明確に認定しました。「LINEで勧誘されたからクーリングオフできない」という業者の主張は、この判例によって真っ向から否定されています。
- 「業務提供誘引販売取引」という重要な類型
副業詐欺においてあまり知られていない重要な類型が、特商法上の「業務提供誘引販売取引」です。
「副業の仕事を紹介する」と誘引しながら、その業務のためのツール・サポート費用を支払わせる取引形態がこれに当たります。
この類型に該当する場合、特商法58条1項に基づいて20日間のクーリングオフが認められます。
「SNSで副業を紹介すると言われてサポート費用を支払わされた」という状況は、この類型に当てはまる可能性があります。
- 「女性のふりをしてLINEをする仕事」という出会い系変形型との接点
本件では、当初「スタンプを送るだけで稼げる」という入口から、「女性のふりをしてLINEをする仕事」という出会い系変形型の副業詐欺へと誘導される構造が見られました。
情報商材型と出会い系変形型が組み合わさった典型的な手口について、クーリングオフが有効と判断された先例として重要です。
弁護士からのアドバイス!
この判決が示す通り、LINEを通じた勧誘でもクーリングオフが認められる場合があります。
特に重要なのは、クーリングオフの期間は書面を受け取った日から起算されるという点です。「そもそも書面を受け取っていない」という場合は、クーリングオフの起算点が遅れ、実質的にクーリングオフを行使できる期間が延長されることがあります。
「LINEだけのやりとりで書面が交付されなかった」という方は、今からでもクーリングオフを主張できる可能性があります。まず専門家に確認してください。
【参考判例・論文】名義人への責任追及|「名義を貸しただけ」では済まない

副業詐欺・情報商材詐欺において、特定商取引法に記載されている運営主体(代表者・事業者)が、実態のない「名義人」である場合があることは、他の記事でも触れてきました。
このセクションでは、その名義人に対して損害賠償責任を追及できるかどうかという、実務上極めて重要な論点を解説します。
副業詐欺における「名義人」とは何か
副業詐欺・情報商材詐欺の組織は多層的な構造を持っています。
特定商取引法の表記ページに記載されている「販売事業者」「代表者」は、実際に詐欺を企画・指示している人物とは別の存在であることが多く、「名義料」として報酬を受け取る代わりに自分の名前・住所・口座を貸し出す役割を担っています。
いわば詐欺組織の「名義貸し役」です。
被害者が業者に連絡しようとしても繋がらない、住所に行っても実態がないという状況は、こうした構造によるものです。
具体的には以下のような形で名義人が使われます。
- 特定商取引法上の「販売事業者」として名前・住所を提供する
- フロント企業の代表者として法人登記に名前を記載する
- 被害金の受け皿となる銀行口座を自己名義で開設・提供する
- 「名義料」として報酬を受け取る
このような名義貸しは、加害者側の追跡・特定を困難にするための仕組みです。
名義人への不法行為責任追及が認められる根拠
では、「名義を貸しただけ」と主張する名義人に対して、被害者は損害賠償請求できるのでしょうか。
裁判例を踏まえ、2つの法的根拠が検討されます。
①民法709条(過失による不法行為)
名義人が「自己名義の預貯金口座を他人に使用させること」は、詐欺に利用されることを認識・予見できたにもかかわらず漫然と提供した場合、過失による不法行為責任(民法709条)が成立し得ます。
この点について、以下の判決・論文は次のように整理しています。
いわゆる振り込め詐欺や闇金業者等による預金口座の悪用が大きな社会問題となっている現状において、自己名義の預金口座のキャッシュカード及び暗証番号を第三者に提供する行為がおよそ通常の商取引からかい離した、犯罪につながりかねないものであることは、社会常識として一般に明らかといえる。そして、上記提供につき正当な理由となり得る事情も何らうかがわれないことからすれば、被告は、少なくとも上記提供により当該預金口座が不正に利用されることを認識し得たというべきである。それにもかかわらず、被告は、これを認識せずに漫然と上記提供をしたのであるから、過失により本件詐欺行為を幇助したものと認められる。
東京地裁令和5年2月22日判決(令2の9401号・判時2592号101頁)
副業詐欺の文脈でも、「副業サイトの代表者名義として登録される」「多数の被害者が送金する口座として使われる」という状況は、「犯罪につながりかねないものであることは社会常識として一般に明らか」という基準に照らして、名義人の過失責任が認定される可能性があります。
②民法719条2項(幇助による共同不法行為)
民法719条2項は、不法行為を幇助した者も共同行為者とみなして損害賠償責任を負うと定めています。
名義人が詐欺業者の活動を幇助したと認定された場合、この規定に基づいて連帯して損害賠償責任を負います。
幇助責任の法的構造について、以下の論文では次のように整理しています。
今日の通説では、共同不法行為における幇助者とは、「他人が不法行為をするのを容易にする行為をした者」……であると定義される。幇助者は直接に加害行為をした者とは言えないが、共同行為者とみなされ、損害について全額連帯責任を負うと解されている(七一九条二項)。
須加憲子「特殊詐欺の預貯金口座提供行為の責任」私法判例リマークス71(2025年〈下〉)55頁
また、名義人が詐欺に使われていることを認識しながら口座提供を継続した場合については、以下のように述べられています。
被告ら名義の口座をa社の送金先として利用することができる状況にあったのだから、客観的にみて、a社の関係者において本件詐欺行為を行うことが容易な状況にあったといえる。
東京地裁令和5年2月22日判決(令2の9401号・判時2592号101頁)
つまり、名義人が
「自分は直接詐欺をしていない」「名前と口座を貸しただけ」と主張しても、
その名義・口座があることによって詐欺行為が容易になっていたという客観的な事実が認められれば、民法719条2項の幇助責任が成立し得ます。
副業詐欺において特商法の事業者欄に名前を記載した名義人・被害金の受け皿として口座を提供した名義人は、この「詐欺行為を容易にした」という評価を受ける可能性があります。
実務上の意味|「業者が消えても名義人への請求が残り得る」
副業詐欺業者は、被害が発覚するとフロント企業を畳み、代表者名義人との連絡を断ち、短期間で消える運用を繰り返します。
「業者が消えた=すべての請求先がなくなった」という状況に見えても、以下の可能性が残っています。
- 名義を提供した人物への過失不法行為・幇助責任の追及
- 口座を提供した名義人への連帯責任の追及
- 特定商取引法上の「事業者」として名前を記載した名義人への責任追及
特に、過失による幇助責任の認定には「社会常識として犯罪に利用されることを認識できたかどうか」が重要な判断基準になります。
特商法上の事業者として登録された名義人は、この基準に照らして「名義を貸しただけ」という主張が通りにくい立場に置かれています。
弁護士からのアドバイス!
「業者が消えてしまった」「特商法表記の住所に行ったが実態がなかった」という状況でも、諦める前に確認してほしいことがあります。
特商法表記に記載されていた「代表者名」「事業者名」は、実態のある人物・法人である場合があります。その人物・法人が名義を提供したことへの過失責任・幇助責任を追及できる可能性が残っています。
また、決済代行業者・アフィリエイターなど周辺への責任追及という手段も別途検討できます。
「業者が消えた」という状況でこそ、弁護士に現状を整理してもらうことが最も重要なタイミングです。
情報商材詐欺との関連判例|副業詐欺にも適用できる法的根拠

【判例①】副業サポートプラン詐欺|不法行為・清算条項の無効(東京地裁令和5年3月)、【判例②】「LINEを使った勧誘はクーリングオフできない」は嘘|業務提供誘引販売取引(東京地裁令和4年11月)で解説した2つの副業詐欺固有の判例に加えて、情報商材詐欺の返金判例として確立されている判例の中にも、副業詐欺の被害者に直接適用できるものがあります。このセクションでは、特に重要な2つの判例を副業詐欺の文脈から改めて整理します。
詳細な解説は「情報商材詐欺の返金判例・裁判例」記事をご覧いただくとして、ここでは「副業詐欺のどのようなケースに当てはまるか」という視点に絞って解説します。
さいたま地裁令和5年7月判決|決済代行業者への責任追及
- 事件名: 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所: さいたま地方裁判所令和3年(レ)第93号
「毎日3万円儲かる」という仮想通貨アービトラージツールの販売事案において、販売業者の不法行為に加えて決済代行業者の重過失による損害賠償責任が認定されました。
裁判所は決済代行業者の審査について以下のように認定しています。
被控訴人が行っていたという商材の審査は、形式的なものであって、誇大表現等の掲載を何ら阻止し得ない形骸化したものであったといわざるを得ないから、上記のような審査の実行をもって被控訴人の故意過失を否定することはできず……
さいたま地方裁判所令和3年(レ)第93号|TKCローライブラリー
副業詐欺においても、クレジットカード・電子決済を経由した支払いが多く見られます。本判決が示す通り、販売業者本人が消えてしまった後でも、決済代行業者への加盟店管理義務違反を根拠とした損害賠償請求という手段が残り得ます。
「業者が消えたのでクレジットカードのチャージバックも通らなかった」という状況でも、この判例を根拠とした請求を検討できます。
旭川地裁令和4年(ワ)|断定的判断の提供
- 事件名: 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所: 旭川地方裁判所令和4年(ワ)第213号
SNS・LINEで
- 「完全自動ほったらかしで資産を約125倍にするという強力なパワーを持ち、あらゆる人がカンタンに1億円、3億円、5億円という、大きな資産を目指すことができる」
- 「正直、このEAを使うことで、あらゆる人を億万長者にする絶対の自信があります」
などと謳ったFX自動売買ツールの販売について、消費者契約法上の断定的判断の提供が認定され65万5600円の返金が命じられました。
裁判所は以下のように認定しています。
本件セールスレターは、被告会社がLINE、チャットワーク等で本件セールスレターを公開、送信したことは、消費者契約法4条1項所定の「勧誘」に当たる。本件各契約は、同法4条1項2号(断定的判断の提供)により取り消し得るものというべきところ……
旭川地方裁判所令和4年(ワ)第213号|TKCローライブラリー
【判例①】副業サポートプラン詐欺|不法行為・清算条項の無効(東京地裁令和5年3月)と同様に、SNS広告からLINEに誘導して「必ず稼げる」「確実に収益が発生する」という断定的な言葉で副業商材を購入させたケースは、この判例と同じ構造を持ちます。
「不特定多数へのLINEセールスメッセージも消費者契約法上の勧誘に当たる」という認定は、副業詐欺の勧誘プロセスにそのまま適用できます。
理解を深めたい
これらの判例の詳細な解説については、こちらの記事をご覧ください。

2つの判例から読み取る「返金請求を成功させるための共通要素」

ここまで副業詐欺固有の2つの判例(woods株式会社事件・フリックワーク事件)と関連判例を解説してきました。
このセクションでは、これらの判例を横断的に見たとき、「返金請求が認められるために何が共通して重要だったか」を整理します。
副業詐欺の被害回復は、裁判まで行くことは珍しく、任意交渉で解決することがほとんどです。
しかし「実際に裁判になった場合に裁判所がどのような事実を重視したか」を知ることは、任意交渉の場面でも有効な根拠として機能します。
共通要素①「証拠が返金額を決定した」
2つの副業詐欺判例に共通する最も重要な要素が、証拠の存在です。
woods株式会社事件では、被告会社のランディングページの文言・LINEでのセールスメッセージ・サポートプランの料金表・解約同意書の内容、これらすべてが証拠として法廷に提出され、裁判所の認定の基礎になりました。
フリックワーク事件でも、「スタンプを送るだけで1日20万円以上も可能」というLINEメッセージの内容が、業務提供誘引販売取引への該当性とクーリングオフの有効性を認定する根拠になっています。
今すぐ保全すべき証拠
- 購入前の販売ページ・ランディングページのスクリーンショット(「必ず稼げます」「確実に収益が出ます」という断定的表現が含まれるもの)
- LINEトーク・SNSのDM全履歴(勧誘・クロージング・返金申し出への対応を含む)
- 勧誘のきっかけとなったSNS広告・動画のURL・スクリーンショット
- 契約書・利用規約・申込確認メール・サポートプランの説明資料 決済明細・クレジットカード利用明細・銀行振込明細
- 実際に届いた商材の内容(PDFのスクリーンショット・会員サイトの画面)
- 返金申し出に対する業者の返答・連絡途絶の記録
- 「解約合意書」など業者が署名を求めてきた書面(内容を確認するため)
共通要素②「LINEを含む勧誘プロセス全体が問題とされた」
2つの判例に共通するもう一つの重要な要素が、「勧誘プロセス全体」が法的評価の対象となったという点です。
フリックワーク事件では「LINEによる勧誘行為も電話勧誘行為に当たる」と認定され、クーリングオフが有効とされました。
woods株式会社事件では、
- SNS広告・ランディングページ
- LINEでのセールスメッセージ
- 担当者とのやりとり・サポートプランへの誘導
このプロセス全体が一体の不法行為として評価されました。
「どの段階で詐欺が始まったか」ではなく、最初の接触から契約・支払いに至るまでのプロセス全体が問題とされます。
「LINEだから証拠にならない」「SNS広告の内容は関係ない」という業者の主張は、これらの判例によって否定されています。
共通要素③「業者側の主張が退けられた」
2つの判例において、業者側がさまざまな主張を行いましたが、いずれも裁判所に退けられました。
woods株式会社事件では「自社は勧誘スキームを提供した業者への発注をしただけで、実際の勧誘は別業者が行った」という主張が退けられました。
フリックワーク事件では「LINEでの勧誘は電話勧誘販売に当たらないのでクーリングオフはできない」という主張が退けられました。
副業詐欺業者が使う典型的な返金拒否の主張と、判例による反論の対応を整理すると以下の通りです。
| 業者の主張 | 対応する判例の判断 |
|---|---|
| 「LINEでの勧誘だからクーリングオフできない」 | LINEによる勧誘も電話勧誘販売に当たると認定 |
| 「解約合意書にサインしたので返金できない」 | 清算条項は責任逃れのための形式的書面として無効と認定 |
| 「勧誘したのは別業者で自社は窓口業務のみ」 | サイト名・書籍・LINEアカウントとの関係から関与を認定 |
| 「自分で申し込み・決済した」 | 断定的判断・不実告知があれば自由な意思による契約とはならない |
判例との照合は、法律の専門知識がないと正確に行うことが難しく、「当てはまらないと思っていたが、実は複数の根拠が使えた」というケースは実務上非常に多く見られます。
副業詐欺の被害回復は裁判まで行くことは珍しく、任意交渉で解決することがほとんどですが、「どの判例が自分のケースに当てはまるか」という見立てを得ることで、交渉の根拠が明確になります。
情報商材や副業スクールなどに支払ったお金は返金の請求ができる場合があります。
あなたが抱えている違和感を法的な視点で整理し、 返金請求ができる状況かどうかを弁護士が無料で判断いたします。
※少しでも違和感があれば、確認だけでもお気軽にご利用ください。無理な勧誘などは一切ありません
理解を深めたい
副業詐欺の返金方法と法的根拠について、クーリングオフから法的手段まで詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

相談先の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

まとめ
この記事では、副業詐欺の返金が実際に認められた判例として、woods株式会社事件(東京地裁令和5年3月)・フリックワーク事件(東京地裁令和4年11月)という2つの副業詐欺固有の判例を中心に解説してきました。
この記事を通じて最も伝えたかったことは2つです。
1つ目は、「LINEで勧誘されたからクーリングオフできない」「解約合意書にサインしたから返金は無理」という業者の主張は、法的に通用しない場合がありますという事実です。
フリックワーク事件はLINEによる勧誘でもクーリングオフが認められることを明確に示し、woods株式会社事件は清算条項付きの解約合意書を「責任追及されるのを免れようとするために形式的に作成させた書面」として無効とした重要な先例です。
2つ目は、「業者が消えても請求できる相手が残り得る」という事実です。
決済代行業者への加盟店管理義務違反(さいたま地裁令和5年)・名義人への過失不法行為・幇助責任、これらは「業者本人が消えた」という状況でも機能し得る手段です。
「判例を読んで、自分のケースと似た状況があった」と感じた方へ。その気づきが、返金への第一歩です。
しかし「判例に当てはまるかどうか」の判断を一人で行うことには限界があります。
「当てはまらないと思っていたが、複数の根拠が使えた」というケースは実務上非常に多くあります。
- 「LINEだけだったから無理だと思っていた」
- 「解約合意書にサインしてしまったから諦めていた」
こうした理由で返金を諦めていた方こそ、一度専門家に現状を話してみてください。
