
この記事の監修者
青山北町法律事務所 代表弁護士
松本 理平(まつもと りへい)
消費者詐欺分野で長年、詐欺業者と対峙をしてきました。消費者詐欺分野の類型や手口に精通しています。詐欺業者のウィークポイントや実態にも詳しく切り込みます。その他、全国ネットでのテレビなどコメンテーター等にてメディア露出多数
「特定商取引法に基づく表記」を恐る恐る確認したとき、そこに並んでいたのは見たこともない海外の住所や、得体の知れないビル名・・・。
- 「相手が海外なら、日本の法律は届かないはずだ」
- 「住所もあやふやな幽霊会社から、お金を取り戻せるわけがない」
そう思って、絶望的な気持ちで画面を閉じたのではないでしょうか。
異国の地名が書かれていると、まるで「逃げ得」を宣告されたような気分になりますよね。
しかし、どうか安心してください。運営会社が海外にあることと、返金ができるかどうかは、実はあまり関係ありません。
彼らがどれほど遠い異国に住所を置いていても、あなたが支払った大切なお金は、必ず「日本国内」を経由して彼らのもとへ流れています。
国内の決済代行会社や銀行口座といった「お金の通り道」さえ押さえてしまえば、彼らの足元を法的にすくい、返金を迫ることは十分に可能です。
本記事では、返金対象になりやすい「悪質な運営会社」に見られる共通点と、住所不定の相手からでも着実にお金を取り戻すための戦略を、弁護士の視点から詳しく解説します。
目次
なぜ「海外住所」が多いのか?悪質業者が住所を隠す本当の理由
占いサイトの「特定商取引法に基づく表記」を確認した際、香港、セーシェル、ベトナム、あるいはイギリス領ヴァージン諸島といった異国の地名が記載されているケースは非常に多く見られます。
「海の向こうにある会社に、日本の法律など通用しないのではないか」と、多くの方がここで一度、返金を諦めかけてしまいます。
しかし、彼らがわざわざ海外に拠点を置く(あるいは置いているように見せる)のには、極めて実務的な3つの目的があります。
①法的・行政的な追及を回避するための「盾」
日本の警察や行政機関の権限は、原則として国内に限定されます。
海外法人という形態をとることで、「日本の法律の枠外」であるかのような演出を施し、捜査や行政処分のハードルを不当に高めようとしているのです。
これは法的責任を逃れるための、彼らなりの防御策と言えます。
②被害者の「戦意」を喪失させる心理的障壁
これが実務上、最も巧妙な狙いです。相手が海外法人だと判明した途端、多くの被害者は「裁判費用が高額になる」「言葉の壁がある」と思い込み、請求自体を断念してしまいます。
この「心理的な諦め」を誘発することこそが、彼らにとっての最大のメリットなのです。
③実体消去(トカゲの尻尾切り)の容易性
悪質な運営会社は、一定の利益を上げた後にサイトを閉鎖し、法人を清算して跡形もなく消える「使い捨て」の運用を想定しています。
海外のペーパーカンパニーであれば、国内法人よりも迅速、かつ不透明な形で実体を消し去ることが可能であり、追及を逃れるための好都合な「出口」として利用されています。
バーチャルオフィス・海外住所=違法ではない|「実体の見えにくさ」が示唆するもの
運営会社の所在地が海外であったり、国内のバーチャルオフィスであったりすること自体は、法律上何ら問題はありません。
現在、コスト削減やリモートワークの普及に伴い、多くの優良企業もこれらの形態を適法に利用しています。
しかし、占いサイトの返金トラブルにおいて問題となるのは、所在地そのものではなく、「その住所を選択している背景にある、運営姿勢の不透明さ」です。
「バーチャルオフィス」という仮面
悪質な業者が好んで利用するのが、月数千円程度で住所だけを借りられる「バーチャルオフィス」です。
悪質な占いサイトの多くがバーチャルオフィス等を利用するのは、「利用者からの直接の追及を物理的に遮断できるから」です。
もし何らかのトラブルが発生し、利用者が直接オフィスを訪ねたとしても、そこには受付代行や無人の郵便受けしか存在しません。
このように、実運営拠点(実際にサクラがメッセージを送っている場所など)と登記上の住所を切り離すことで、利用者や行政からの物理的なアプローチを困難にさせているのが実態です。
サイトの規模と所在地の「不自然な乖離」
例えば、数百名もの有名鑑定師が在籍していると謳い、年間に億単位の売上があるはずのサイトが、築年数の古いワンルームマンションや、地方の雑居ビルの一室を所在地としているケースがあります。
このような「事業規模と所在地のミスマッチ」は、そのサイトが正当なビジネスを行っていない(サクラが別の場所で一括操作しているなど)ことを示す材料となり得ます。
住所そのものが違法ではなくとも、その「不自然さ」を指摘することは、交渉において相手方の説明責任を追及する有力な材料となるのです。
海外法人からの返金方法|決済代行会社への追及
運営会社が海の向こうにあり、直接の手紙や電話が届かないとしても、返金を諦める必要はありません。
なぜなら、彼らが日本でビジネスを展開し、あなたから代金を受け取っている以上、お金の「入り口」と「通り道」は必ず日本国内に存在するからです。
私たち弁護士が返金交渉を行う際、海外の住所を追いかける以上に重視するのが、この日本国内にある決済網へのアプローチです。
決済代行会社(決済代行業者)を交渉の窓口にする
海外法人が運営する占いサイトであっても、クレジットカード決済やコンビニ決済、電子マネー決済を利用している場合、そこには必ず「決済代行会社」が介在しています。
決済代行会社は、サイト運営者に代わって決済システムを提供し、売上金を回収する役割を担っています。
弁護士は、この代行会社に対して「貴社が決済を代行しているサイトは、詐欺的な疑いがある」と法的に通知します。
代行会社側も、不法行為を助長しているとみなされるリスクや、自社の決済網が犯罪に利用されることを嫌います。
そのため、代行会社から運営会社に対して返金を促す、あるいは代行会社が保持している売上金から返金させるための強力な交渉が可能になるのです。
国内銀行口座の特定と凍結
銀行振込で支払った場合、振込先の銀行は日本の銀行(あるいは日本国内のネット銀行)であるはずです。
たとえ法人が海外であっても、日本国内の口座を使っている以上、そこには日本の法律が適用されます。
弁護士は、犯罪利用の疑いがある口座に対して凍結を要請し、資金を保全した上で交渉を行います。
口座を止められることは、業者にとって「日本での集金ルートを失う」ことを意味するため、返金に応じる大きな動機付けとなります。
クレジットカード決済における「チャージバック」
クレジットカードを使用していた場合は、さらに強力な救済手段である「チャージバック(支払い取消)」の検討が可能です。
カード会社に対し、詐欺的な勧誘や不当な契約があったことを法的に立証し、支払いの取り消しを求めます。
海外の業者はカード会社との規約に違反していることが多いため、専門家が介入して適切にエビデンスを提示することで、カード会社経由での返金が実現するケースが数多くあります。
会社名やサイト名が頻繁に変わる|追及を逃れるための「作り替え」の手口
悪質な占いサイトの運営において、所在地や法人を海外に置くことと並んで頻繁に行われるのが、「サイト名や運営会社の短期間での変更」です。
これは法的な追及やネット上の悪評から逃れるための、彼らにとっての防衛手段です。
なぜ彼らは、手間をかけてまで名前や看板を掛け替えるのか。その裏側にある実態を解説します。
悪評をリセットするための「名称変更」
一つのサイト名で長期間運営を続けると、インターネット上の掲示板やSNSには「騙された」「返金されない」といった被害報告が蓄積されます。
新規の利用者がサイト名を検索した際、こうした悪評が目に入れば、課金を躊躇してしまいます。
そこで、彼らは定期的にサイト名やロゴ、デザインの一部を変更し、「過去の悪評とは無関係な、新しいサービス」を装います。
中身の鑑定師(サクラ)やシステムが全く同じであっても、名前を変えるだけで検索結果からの追及を一時的にかわすことができるのです。
「トカゲの尻尾切り」による責任回避
さらに悪質なケースでは、サイト名だけでなく「運営法人」そのものを次々と交代させます。
返金請求や行政処分などの法的なリスクが一定以上に高まったタイミングで、元の運営会社を清算させ、別の海外法人や新設したペーパーカンパニーに事業を「譲渡」した形をとります。
これにより、以前の会社に対する返金義務を法的に切り離そうとする、いわゆる「トカゲの尻尾切り」を狙うのです。
「サイト統合・リニューアル」の罠
利用者に対して「システムリニューアルのため、こちらの新しいサイトへ移行してください」と案内する手法も一般的です。
これは単なるサービス向上ではなく、利用者を新しい規約(より業者に有利な、返金を困難にする条項など)に同意させたり、過去のやり取りの証拠を古いサーバーごと消去したりするための策略である可能性が高いといえます。
サイト名や会社名が頻繁に変わるのは、過去の悪評や法的な責任から逃れるための典型的な手口です。
しかし、どれほど名前を変えても「決済ルート」などの実務的な接点は隠しきれません。表面的な看板の掛け替えに惑わされず、一貫した調査を行うことが解決への鍵となります。
まとめ
- 「運営会社が海外にある」
- 「住所を調べても実体が見えない」
こうした事実は、一見すると返金への道を閉ざす絶望的な材料に思えるかもしれません。
しかし、本記事で解説してきた通り、実務的な視点から見れば、それは決して「返金を諦める理由」にはならないのです。
- 海外住所やバーチャルオフィス
- これらは法的な追及をかわし、利用者の戦意を喪失させるための「心理的な壁」に過ぎません。
- 国内の決済網が急所
- 法人がどこにあろうと、日本国内の銀行口座や決済代行会社を経由してお金が動いている以上、そこが法的な解決の糸口となります。
- 名前の掛け替えは想定内
- サイト名や社名の変更は、悪質業者特有の「逃げの手口」です。看板が変わっても、お金の流れという「足跡」までは消し去れません。
相手が姿を隠そうとするのは、それだけ自分たちの行為に後ろめたさがあり、正当な追及を恐れているからです。
「相手が見えない」ことに惑わされる必要はありません。プロの目には、彼らが残した資金移動の記録がはっきりと見えています。

