
この記事の監修者
青山北町法律事務所 代表弁護士
松本 理平(まつもと りへい)
消費者詐欺分野で長年、詐欺業者と対峙をしてきました。消費者詐欺分野の類型や手口に精通しています。詐欺業者のウィークポイントや実態にも詳しく切り込みます。その他、全国ネットでのテレビなどコメンテーター等にてメディア露出多数
「情報商材詐欺で業者は本当に逮捕されるのか」
この疑問を持つ方に、まず明確にお伝えします。情報商材詐欺は、実際に逮捕者が出ている犯罪です。
名古屋地方裁判所令和3年判決では、バイナリーオプション取引の投資指導商材を組織的に販売した被告人2名に、詐欺罪・特定商取引法違反による有罪判決が下されました。
2026年2月には、インスタグラムで大学生を勧誘して架空の情報商材を購入させたグループが、京都府警に詐欺・特定商取引法違反の疑いで逮捕されています。
被害者は約160人、被害総額は約1億4000万円に上るとみられています。
情報商材詐欺は「逮捕されにくい犯罪」として語られることがあります。それは事実の一面です。
「騙す意図(故意)」の立証が難しく、個人の被害だけで刑事事件化することは現実的に難しいのが実情です。
しかし一方で、被害者が多数・被害総額が大きい・組織的・計画的な犯行という条件が揃えば、警察は実際に動いており、逮捕・有罪判決に至っています。
もう一つ、この記事を読み進めるうえで最初に知っておいてほしい重要な事実があります。
「業者が逮捕される」ことと「被害者のお金が返ってくる」ことは、別の話です。
警察は犯罪を捜査・送検することが目的であり、被害金の回収は直接の目的ではありません。「警察に相談すれば返金してもらえる」という期待は、残念ながら実態とは異なります。
「逮捕されてほしい」という気持ちは正当です。
しかし「お金を取り戻したい」という目的においては、刑事手続きと民事上の返金請求を切り分けて考えることが重要です。
この記事では、実際の逮捕事例を解説しながら、
- 「刑事事件化する条件」
- 「警察に相談する意義と限界」
- 「返金目的においては何が有効か」
を体系的に整理します。
「自分の被害も事件レベルなのか」「警察に相談すべきか」という疑問を持っている方に、この記事が判断の材料を提供できれば幸いです。
目次
情報商材詐欺が刑事事件化する「3つの条件」
「被害に遭ったのに、警察が動いてくれない」
情報商材詐欺の被害者から最もよく聞かれる言葉の一つです。
被害届を提出しても受理されない、相談に行っても「民事で解決してください」と言われてしまうという経験をした方も多いでしょう。
情報商材詐欺が刑事事件化しにくい背景には、明確な理由があります。
しかし同時に、警察が実際に動いた事件には、共通した条件があります。
このセクションでは、刑事事件化の「条件」と「壁」を正確に理解することで、「自分のケースで警察はどこまで動けるのか」という現実的な見通しを持っていただくことを目的とします。
【条件①】被害者が多数・被害総額が大きい
情報商材詐欺における刑事事件化の最も重要な条件が、被害の規模です。
警察が捜査に踏み切った事件を見ると、いずれも被害者が数十人〜数万人規模、被害総額が数千万円〜数十億円規模に及んでいます。
- 名古屋地裁令和3年12月判決:被告人A・Bの起訴分だけで被害総額約600万円(組織全体ではさらに大規模)
- 京都府警2026年逮捕事件:被害者約160人・被害総額約1億4000万円
- 大阪府警2019年GIFTプロジェクト事件:被害者多数・被害総額数億円規模
なぜ規模が重要なのか
警察にとって、刑事事件化には捜査員の人員・時間・コストが伴います。個人の少額被害だけでは、捜査に踏み切る優先度が低くなりがちです。
しかし被害者が多数集まることで2つの効果が生まれます。
まず、「架空の実績・存在しないサービスを事実として告げた」という欺罔行為の立証が容易になります。
多数の被害者の証言が積み重なることで、「結果を出せない虚偽の情報だった」という事実が明確になるからです。
次に、社会的な問題として報道・認知されることで、警察が本格的な捜査に乗り出す動機が生まれます。
【条件②】架空の実績・存在しないサービスを事実として告げた
刑事上の詐欺罪が成立するためには、「騙す意図(故意)」の立証が不可欠です。
この立証を可能にするのが、「架空の実績・存在しないサービスを事実として告げた」という欺罔行為の明確さです。
名古屋地裁令和3年判決では、被告人Aが「2時間で12万6800円の利益を得た」という実績を示しましたが、これは事実無根でした。
また「バイナリーオプション取引の勝率を80%以上に上げることができる方法論が存在する」と述べましたが、そのような方法論は存在しませんでした。
真実は、被告人Aが、被告人Bの指導を受け、自己のバイナリーオプション取引において、2時間で12万6800円の利益を得た事実も、40万円を投資した後約30秒で38万円の利益を得た事実もなく、それら取引の裏付けとなっているバイナリーオプション取引の勝率を80パーセント程度に上げることができる方法論がなく……
裁判所ウェブサイト「名古屋地方裁判所令和3年(わ)第694号」
大阪府警2019年GIFTプロジェクト事件では、架空の大富豪投資家「加藤浩太郎」を伊藤容疑者が演じ、「私が代わりに稼いで毎月最低10万円をギフトします」と謳いましたが、その実績は事実無根でした。
動画で伊藤容疑者は「伝説の投資家・加藤浩太郎」を名乗り、「投資で毎月35%以上の利益を出すことができ、何もしなくても毎月10万円以上を生涯にわたってギフトとして贈る」などと勧誘していた。しかし、参加費を支払っても「ギフト」は一度も贈られなかった。
産経新聞(「毎月10万円をギフト」 動画で情報商材宣伝 詐欺容疑で5人を逮捕)
「内容が薄かった」だけでは詐欺罪の立証が困難な理由
一方で、「商材の内容が薄かった」「期待していた収益が得られなかった」という状況だけでは、詐欺罪の「故意」の立証が困難です。
「自分は本当に価値があると思っていた」「稼げると信じていた」という販売者側の主張が成立し得る余地があるからです。
「架空の実績」「存在しない機能・サービス」という、客観的に「事実ではない」と示せる要素が、刑事立件の鍵になります。
【条件③】組織的・計画的な犯行
刑事事件化した案件に共通するもう一つの条件が、組織的・計画的な犯行の存在です。
名古屋地裁令和3年12月判決で裁判所が「計画的かつ組織的なものであり、全体として相当悪質といわなければならない」と述べたように、役割分担のある組織的な犯行は、故意の認定を強固にします。
本件は、被告人Aが、出会い系アプリやSNS上で、バイナリーオプション取引により多額の利益を得ている架空のトレーダーを演じ、同サイトを通じて知り合った若年成人らに対し、被告人Bはときに同取引についての被告人Aの師匠として、またDはときに社役割分担の上、種々言葉巧みに同取引に関する投資指導サービスを勧誘し……その態様は計画的かつ組織的なものであり、全体として相当悪質といわなければならない。
裁判所ウェブサイト「名古屋地方裁判所令和3年(わ)第694号」
この計画性と役割分担の存在が、「最初から騙す意図があった」という故意の認定を支えます。
大阪府警2019年GIFTプロジェクト事件でも、架空の投資家を演じるサクラへの報酬支払い・偽の通帳画像の用意・返金保証という嘘による安心感の演出。
これらの事前準備が「計画的な詐欺」の立証を支えました。
【事件例①】名古屋地裁令和3年12月|バイナリーオプション詐欺・有罪判決
- 事件名: 詐欺・特定商取引に関する法律違反被告事件
- 裁判所: 名古屋地方裁判所令和3年
事件の概要——出会い系アプリで若者を狙った組織的詐欺
被告人A・Bの2名はC組織に所属し、バイナリーオプション取引に関する投資指導商材の販売事業に従事していました。
勧誘の手口は以下のような流れでした。
まず被告人Aが出会い系アプリ・SNSで20代前半の若者に接触し、架空のトレーダー「F」を演じます。自身のバイナリーオプション取引の「実績」として収益動画を見せながら信頼を構築し、「師匠」とされる被告人Bに引き合わせるというメッセージを送ります。
その後ホテルのロビーラウンジ等での個別面談に誘い出し、被告人Bが投資指導サービスを1件あたり100万円で販売しました。
勧誘の場での被告人Bの言葉は以下のようなものでした。
「素人がやると50パー50パーなんですけど、どれだけ50パーを80パーセントとか90パーセントに増やせるか。それは知識とか経験で勝てるものなんですよ」「僕たちは、一律で100でやっているんですよ」「僕たちだと、一律で100でやってて、そのやり方とかも教えていきますよ」
名古屋地方裁判所令和3年(わ)第694号
「架空の実績」|何が虚偽だったか
この事件の核心は、被告人Aが示した「実績」がすべて事実無根だったという点です。
判決は以下のように認定しています。
真実は、被告人Aが、被告人Bの指導を受け、自己のバイナリーオプション取引において、2時間で12万6800円の利益を得た事実も、40万円を投資した後約30秒で38万円の利益を得た事実もなく、それら取引の裏付けとなっているバイナリーオプション取引の勝率を80パーセント程度に上げることができる方法論がなく、被告人Bが、過去、同方法論の教示を受けるために現金100万円を支出した後、同方法論を用いて同支出を超える利益を得た事実もないのに、これあるように装い……
裁判所ウェブサイト「名古屋地方裁判所令和3年(わ)第694号」
つまり被告人Aが見せた「2時間で12万円以上の収益」という動画も、「40万円が30秒で38万円になった」という実績も、そして「勝率を80%以上に上げる方法論」も、すべて存在しない虚偽のものでした。
特商法違反|クーリングオフ書面の不交付
本件では詐欺罪に加えて、自己啓発サービスの契約に際してクーリングオフに関する書面を交付しなかった特定商取引法違反も認定されています。
被告人両名は、Dおよびとの間で、前記勧誘の担当者が架空のトレーダー等になりすまして集客をするなどの手法を利用し……(中略)……同日、O店において、Pとの間で前記役務提供契約を締結したのに、同人に対し、直ちに、同契約の解除に関する事項等法令で定める事項が記載された書面を交付しなかった。
裁判所ウェブサイト「名古屋地方裁判所令和3年(わ)第694号」
法定の除外事由がないにもかかわらず書面を交付せずに高額契約をさせた行為が、詐欺罪と並ぶ別罪として処罰の対象になりました。
判決の結果と量刑の理由
裁判所は被告人A・Bに対して以下の判決を下しました。
- 被告人A:懲役1年6月(執行猶予4年)
- 被告人B:懲役2年(執行猶予4年)
量刑の理由において、裁判所は以下のように述べています。
本件は、被告人Aが、出会い系アプリやSNS上で、バイナリーオプション取引により多額の利益を得ている架空のトレーダーを演じ、同サイトを通じて知り合った若年成人らに対し、被告人Bはときに同取引についての被告人Aの師匠として、またDはときに社役割分担の上、種々言葉巧みに同取引に関する投資指導サービスを勧誘し……その態様は計画的かつ組織的なものであり、全体として相当悪質といわなければならない。
裁判所ウェブサイト「名古屋地方裁判所令和3年(わ)第694号」
被告人A・Bの起訴分だけで被害総額は合計約600万円(被告人A分約250万円・被告人B分約350万円)に上ることも、刑事責任が軽視できない理由として示されています。
執行猶予がついたことについては、被告人両名が前科なく若年であること・捜査・公判の過程を通じて本件を重く受け止め真摯な反省と謝罪の気持ちを深めていること・親身に更生を支える家族がいることなどが考慮されています。
この事件が示す重要なポイント
この事件が示すポイントを整理します。
- ①「出会い系アプリ→SNS→個別面談」という勧誘プロセス全体が詐欺罪として認定された
特定の販売ページや広告だけでなく、出会い系アプリでの接触から始まり、SNSでの信頼構築、ホテルでの個別面談というプロセス全体が一体の詐欺行為として認定されました。
「どの段階で詐欺が始まったか」ではなく、プロセス全体が問われる点は、類似の手口全般に当てはまります。
- ②「詐欺罪」と「特商法違反」が並行して認定された
詐欺罪の立件が難しいケースでも、特商法違反(書面不交付・クーリングオフ妨害)は別途成立し得ます。本件では詐欺罪と特商法違反の2つが並行して有罪認定されています。特商法違反だけでも刑事処罰の対象になるという点は、情報商材詐欺全般において重要な意味を持ちます。
- ③「若年・前科なし」でも有罪判決——情報商材詐欺の悪質性が示された
被告人両名は前科がなく若年であったにもかかわらず有罪判決が下されました。
「初犯だから」「若いから」という事情が量刑において考慮されることはあっても、有罪を免れる理由にはならないことが示されています。
【事件例②】大阪府警2019年|GIFTプロジェクト・「伝説の投資家」を演じた組織的詐欺
- 事件名: GIFTプロジェクト詐欺事件
- 逮捕日: 2019年9月25日令和3年
事件の概要|「伝説の投資家」を演じたサクラ詐欺
本件は、「GIFTプロジェクト」という名称の情報商材を組織的に販売した詐欺事件です。
主犯格の八木雄一容疑者らは、インターネット上の動画を使って「伝説の投資家・加藤浩太郎」という架空の人物を作り上げ、全国から多額の金銭を詐取しました。
動画には伊藤公一容疑者(65)が「加藤浩太郎」として出演。
以下のような内容を語り、参加費約10万円の情報商材購入を促しました。
「資産が約80億円あり、賛同してくれれば、私が運用して毎月10万円を渡せる」「毎月10万円以上を生涯にわたってギフトとして贈る」
産経新聞
しかし実際には、参加費を支払っても「ギフト」が一度も贈られることはありませんでした。
手口の巧妙さ|サクラ・偽通帳・返金保証という多重の演出
この事件の特徴は、被害者の信頼を獲得するための「仕掛け」が複数重なっていた点です。
「返金保証」という言葉が安心感を与えながら購入を促す道具として使われていた点は、現在も多くの情報商材詐欺で見られる典型的な手口です。
返金保証があるから安心だと思った」という被害者の言葉は、この事件でも聞かれました。
被害規模|6800人・9億2000万円
同課は2017年4月以降の約1年間で全国の延べ約6800人から約9億2千万円を集めたとみている。
産経新聞
約1年間で全国6800人から9億円超という被害規模は、情報商材詐欺の刑事事件化事例の中でも際立って大きなものでした。
この規模の被害があったからこそ、警察が本格的な捜査に踏み切り、逮捕・起訴に至っています。
なお、今回の逮捕容疑として特定されたのは、平成29年4〜5月ごろに大阪府・京都府などに住む50〜60代の男女5人から現金約53万円を詐取した部分です。
警察は被害全容の解明を進め、起訴に至りました。
判決|主犯に実刑判決
本件は逮捕・起訴を経て刑事裁判となり、主犯格に実刑判決が下されました。
※判決の詳細(裁判所・判決日・量刑)については、公開された判決文を確認していません。当事務所の調査によれば、主犯格について有罪・実刑判決が確定していることが明らかになっています。
この事件が示す重要なポイント
この事件が示すポイントを整理します。
- ①「返金保証」は詐欺の道具になり得る
「成果が出なければ返金保証」という言葉は、消費者の警戒心を下げる効果的な道具として意図的に使われました。
しかし実際には返金に応じる意思がなく、安心感を演出するための嘘でした。
「返金保証がある」という説明が、逆に「最初から返金するつもりがなかった(詐欺の故意がある)」という認定を強める根拠になり得ます。
- ②「架空の人物」を演じた役者を使う組織的欺罔
伊藤公一容疑者が「伝説の投資家・加藤浩太郎」を演じ、サクラが「成功者」として動画に出演し、偽の通帳画像が証拠として提示される。
このような組織的・多層的な欺罔行為は、「最初から騙す意図があった」という故意の立証を明確にします。
個人が「自分は本当に稼げると思っていた」と主張できる余地が、組織的な役割分担によって著しく狭まります。
- ③「大規模被害」が警察を動かした
6800人・9億円超という被害規模が、警察が本格捜査に踏み切った直接の理由です。
「個人の被害だけでは警察は動きにくい」という現実と表裏一体で、「被害が社会問題として認知された規模になると、警察は動く」という事実を示しています。
- ④「実刑判決」という結末が示すもの
情報商材詐欺は「逮捕されても執行猶予がつく」という認識を持つ方がいますが、本件の主犯格には実刑判決が下されています。
名古屋地裁令和3年判決では執行猶予が付きましたが、被害規模・悪質性・役割の重大さによって実刑になるケースがあることを、この事件は示しています。
事件から読み取る「刑事事件化の決め手」と返金への影響
名古屋地裁令和3年12月判決とGIFTプロジェクト事件の2つの刑事事件を通じて、情報商材詐欺が刑事事件化する「決め手」と、刑事事件化が被害者の返金にどう影響するかを整理します。
刑事事件化の「決め手」となる共通点
2つの事件に共通する最も重要な要素は、欺罔行為が「架空」のレベルに達していたという点です。
名古屋地裁令和3年12月判決では、被告人Aが示した実績について以下のように認定されています。
真実は……2時間で12万6800円の利益を得た事実も……40万円を投資した後約30秒で38万円の利益を得た事実もなく、それら取引の裏付けとなっているバイナリーオプション取引の勝率を80パーセント程度に上げることができる方法論がなく……
GIFTプロジェクト事件では、「伝説の投資家」という人物そのものが架空であり、「毎月10万円のギフト」は一度も実現しませんでした。
「内容が薄かった」「収益が出なかった」というレベルではなく、「そもそも存在しない実績・人物・方法論を事実として告げた」という点が、詐欺罪の故意認定を可能にしました。
「組織性」|役割分担が故意を証明する
名古屋地裁令和3年12月判決で裁判所が「計画的かつ組織的なものであり、全体として相当悪質」と述べたように、役割分担のある組織的な犯行は故意の認定を強固にします。
GIFTプロジェクトでも、架空の人物を演じる役者・サクラ・偽の通帳画像・返金保証という複数の仕掛けが事前に準備されており、「最初から騙すために計画した」という事実が客観的に示せました。
組織的な準備行為の存在が、個人の「自分は本当に価値があると思っていた」という抗弁を封じる効果を持ちます。
「被害規模」|社会問題化が捜査を動かす
GIFTプロジェクトの6800人・9億円超という規模は、社会問題として報道され警察が本格捜査に踏み切る契機になりました。
名古屋地裁令和3年の事件も、組織全体ではより大規模な被害が見込まれていました。
個人の被害だけで警察が動くことは現実的に難しく、被害規模の大きさが捜査開始の現実的な条件になっています。
警察が動いても「返金に直結しない」理由
2つの刑事事件を見て、「業者が逮捕・有罪になったなら、被害者のお金は返ってきたのだろうか」と思う方も多いでしょう。
ここで重要な事実をお伝えします。
刑事手続きは「業者を処罰すること」が目的であり、「被害者にお金を返すこと」は直接の目的ではありません。
GIFTプロジェクトで主犯が実刑判決を受けたとしても、被害を受けた6800人の方々に自動的に返金が行われるわけではありません。
名古屋地裁令和3年の判決でも同様です。刑事裁判の有罪判決は、被害者への返金を命じるものではなく、あくまでも被告人を刑事罰に処するものです。
被害者が「お金を取り戻す」ためには、刑事手続きとは別に民事上の損害賠償請求・不当利得返還請求という手続きを自ら起こす必要があります。
刑事告訴と民事返金請求を「並行して進める」戦略
「刑事と民事は別の手続き」という理解を踏まえたうえで、両者を上手に組み合わせることが重要です。
刑事告訴・被害届が持つ「間接的な返金効果」
刑事告訴・被害届には、直接的な返金効果はないものの、以下の間接的な効果があります。
まず、口座凍結という効果です。
被害届を受理した警察が捜査を開始すると、業者の銀行口座が凍結される場合があります。口座に残金がある場合、振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の支払い申請につながる可能性があります。
次に、民事訴訟での証拠活用という効果です。
警察の捜査によって収集された証拠・認定された事実は、その後の民事訴訟においても活用できる場合があります。刑事で有罪判決が確定した事実は、民事訴訟での不法行為の立証を大きく助けます。
ただし注意点もあります。
口座が凍結されると、その口座に対する個別の民事執行が困難になる場合があります。「警察に被害届を出すか」「先に民事請求を進めるか」という判断は、弁護士と戦略を相談したうえで決めることをお勧めします。
民事返金請求を最優先に動かすべき理由
「お金を取り戻す」という目的においては、民事上の手続きを最優先で動かすことが最も合理的です。理由は3つあります。
第一に、刑事事件化を待つ間に業者がサイトを閉鎖し証拠が消え、資産が移動してしまうリスクがあります。
第二に、刑事事件化の条件を満たさないケースでも、民事上の返金請求は広く認められています。
第三に、消費者契約法による取り消し権には行使期間の制限(追認できる時から1年・契約から5年)があり、時間が経過するほど使える手段が狭まります。
弁護士からのアドバイス!
「業者を刑事告訴したい」「逮捕されてほしい」という気持ちは正当です。しかし、「お金を取り戻したい」という目的においては、刑事と民事を切り分けて考えることが重要です。
実務上の最も合理的な動き方は、まず弁護士に相談して民事上の返金請求の方針を決め、その流れの中で刑事告訴の戦略も同時に組み立てるというアプローチです。
「刑事か民事か」ではなく「刑事も民事も、優先順位をつけて並行して動かす」という発想が、取り戻せる金額を最大化します。
自分の被害は刑事事件になるか|判断基準と次の一手
- 「自分の被害は刑事事件になるのか」
- 「警察に相談すべきか」
ここまで読んできて、この疑問を持っている方も多いでしょう。
このセクションでは、自分のケースを判断するための実用的な基準と、今すぐ取るべき行動を整理します。
刑事告訴・被害届が有効なケース
以下の状況に当てはまる場合、警察への被害届・刑事告訴が有効に機能する可能性があります。
「架空の実績・存在しないサービス」が明確に示された
名古屋地裁令和3年・GIFTプロジェクト事件に共通するのは、「架空の人物」「存在しない方法論」「実現していない実績」を事実として告げたという点でした。
「内容が薄かった」「収益が出なかった」というレベルを超えて、「そもそも存在しないものを事実として告げられた」という状況が明確であれば、詐欺罪の欺罔行為として立証できる可能性があります。
組織的・計画的な犯行の痕跡がある
- サクラの存在
- 役割分担
- 事前に用意された偽の証拠(偽の通帳画像・作られた動画など)
こうした組織性の証拠があれば、「最初から騙す意図があった」という故意の認定を強固にします。
「一人の販売者」ではなく「複数人が関与した組織的な犯行」であることが示せる場合、刑事事件化の可能性は高まります。
他にも被害者がいると思われる
自分と同じ手口で被害に遭った人が複数いると思われる場合、複数の被害者がまとまって被害届を提出・告訴することで、警察が捜査に踏み切る可能性が高まります。
SNSや消費者センターへの相談記録などから、類似被害者の存在を確認できる場合があります。
今すぐやるできることは証拠の保全
刑事・民事どちらの手続きを取るにしても、最初に・最優先でやるべきことは証拠の保全です。
刑事事件化を検討している場合は特に、以下の点に注意してください。
警察への相談・被害届提出より先に証拠を保全する
業者は、警察から連絡が入ったり被害者から法的対応の気配を察知した瞬間に、販売ページを閉鎖し、LINEアカウントを削除し、証拠を消します。
「警察に相談してから証拠を集めよう」では手遅れになります。
保全すべき証拠の優先順位
- 購入前の販売ページ・広告動画のスクリーンショット・URL(「必ず稼げる」「確実に利益が出る」という断定的表現が含まれるもの)
- LINEトーク・SNSのDM・メールの全履歴(勧誘・クロージング・返金申し出への返答を含む)
- 振込明細・クレジットカード利用明細・ローン契約書
- 契約書・利用規約・申込確認メール
- 実際に届いた商材の内容(PDFのスクリーンショット・動画URL・会員サイトの画面)
「これは証拠になるのか?」と迷ったものはすべて保存しておくというスタンスが重要です。
証拠はクラウドストレージにもバックアップを取り、端末の故障や誤削除に備えてください。
業者への連絡より証拠保全を先に
「まず返金を申し出てみよう」という行動は、業者に逃げる準備をさせてしまうリスクがあります。
業者への連絡・返金の申し出は、必ず証拠の保全が完了してから、弁護士と方針を決めたうえで行ってください。
まとめ
この記事では、情報商材詐欺が実際に刑事事件化した2つの事例
- 名古屋地裁令和3年12月判決(バイナリーオプション詐欺・有罪判決)
- GIFTプロジェクト事件(大阪府警2019年・主犯実刑判決)
を解説しながら、刑事事件化の条件・警察が動く理由・そして返金との関係を体系的に整理してきました。
この記事を通じて最も伝えたかったことは2つです。
1つ目は、情報商材詐欺は実際に逮捕・有罪判決に至る犯罪であるという事実です。
「情報商材詐欺で業者は捕まらない」という認識は正確ではありません。
- 「架空の実績・存在しないサービスを事実として告げた」
- 「組織的・計画的な犯行だった」
- 「被害が大規模だった」
この3つの条件が揃えば、警察は実際に動き、裁判所は有罪判決を下しています。
2つ目は、「業者が逮捕される」ことと「被害者のお金が返ってくる」ことは別の話だということです。
刑事手続きは業者を処罰することが目的であり、被害金の回収は直接の目的ではありません。「お金を取り戻す」という目的においては、刑事手続きとは別に民事上の返金請求を自ら動かすことが不可欠です。
「自分の被害は刑事事件にはならないかもしれない」と感じた方も、それは返金を諦める理由にはなりません。
2つの判例が示す通り、刑事事件化の条件を満たさないケースでも、民事上の返金請求は十分に可能です。
近年も情報商材詐欺・副業詐欺の摘発は続いており、手口は変化しても「架空の実績」「組織的な勧誘」「大規模な被害」という構造は変わっていません。
あなたが遭った被害が、どの類型に当てはまるかを専門家に整理してもらうことが、最初にすべき行動です。
証拠を保全し、まず専門家に現状を話してみてください。
- 「刑事事件になるかどうか」
- 「民事で返金を請求できるかどうか」
この2つの問いへの答えは、相談してみることで初めて見えてきます。
