【企業法務・時事】「その記者会見必要?」有事の初動対応と記者会見の是非

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1 問題意識

 令和5年2月28日、東京地方裁判所は、元アイドルの自殺が所属会社によるものとして記者会見をした遺族に対して、所属会社の名誉が記者会見により棄損されたとして、567万円の支払いを命ずる判決を出しました。本件に関しては遺族の気持ちも察するところがあるので、記者会見をして広く問題を喚起する気持ちは理解できますが、結果として逆に損害賠償義務を負う結果となりました。

 令和4年の年末には、女性支援団体が、同団体の会計に関する疑義を呈していた一般人男性に対して、名誉棄損訴訟を提起して記者会見をしたところ、逆に社会一般(特にインターネット上での)のヘイトを買い、結果として、インターネットの有志による団体の不正を追及する声が高まり、東京都の杜撰な会計への責任追及まで波及するような事態となりました。これは記者会見により、逆に社会的な批判を受けてしまった例です。

 上記2つの例とは毛色が違いますが、令和5年2月には、老舗旅館にて基準の3700倍のレジオネラ菌が検出され、杜撰な温泉の管理をしていた事件では、社長が記者会見を開き「レジオネラ菌は大したことがないという思い込みで大変なことをして申し訳ないと思っている」という旨謝罪をしたところ、メディアにより「レジオネラ菌は大したことがない」という部分のみ切り取られさも反省していないかのような印象で報道がされ、社長はより強い社会的非難を受けました。その結果か因果は不明となっていますが、同社長は自殺するに至っています。もちろん、旅館の対応は避難を受けてしかるべきですが、本件も記者会見により社会的非難を強めてしまった例と考えます。

 これらののケースは、いずれも記者会見が、意図しない不利益な結果を招いた例といえます。そもそも、記者会見をする必要があったのかという観点から、企業や私人はどのような場合に記者会見を行うべきなのか考えていきたいと思います。

2 記者会見は基本的に行うべきではない

 幣所では、有事対応にせよ、社会的な問題的にせよ、原則として初動として記者会見を行うべきではないと考えております。もちろん、誰もが知っている著名人や大企業であれば、内容次第では記者会見を行うべき場合もありますがこれも必要最小限度に抑えるべきです。

 理由の第1としては、事実関係の確定がない段階での発信は、名誉棄損として民事的刑事的な責任を負う可能性が高く、誤報のそしりを受ける可能性も高いことにあります。有事対応や社会的な問題提起のためのアクションの初動では、あらゆる事実関係が当事者ですら正確に把握していないため、思い込みで他人の名誉を棄損したり、後から異なる事実関係が明らかになり、社会的な責任追及につながる可能性が高いです。

 理由の第2としては、マスコミによる印象操作の危険が高いためです。マスコミは、報道をしない自由があることは昨今よく言われており、上記の女性支援団体の例が未だインターネットや現場単位での大きな動きにとどまって広く報道されていないのですが、そのようなマスコミの姿勢により逆に怪しいのではと女性支援団体への批判が強まっています。すなわり、マスコミの動きにより、当初の記者会見の信ぴょう性が減殺されてしまった例です。また、上記の旅館の例では、もっと悪質で、マスコミが記者会見をトリミングして(私はこれをマスコミの「トリミング権」の濫用と呼んでいます)、最悪の事態を招いたと考えております。このように、記者会見をしてもコントロールできない第三者に結果を左右される大前提があるので、思うような効果を期待できないことにあります。

 理由の第3としては、その様子が半永久的に保存され、一切の責任の精算がされても将来的に再度拡散されて掘り起こされる可能性があることにあります。

 そして、理由の第4でこれが、一番大きな理由になりますが、そもそも記者会見の効果は薄い、あるいはない。ことの方が大きいです。もちろん、最終的な結果の段階では、意味はあるかもしれませんが、有事の初動段階では、どのような効果が期待できるでしょうか。おそらく、効果はないと思います。最低限ホームページで簡易なプレスリリース程度で、社会的な責任に対しては十分対応できるというのが幣所の見解です。

 このように、上記のようなデメリットやリスクが大きい記者会見は、有事の初動では、基本的には行わないほうがいいです。よく、経営コンサルティングの人などが仕事をしている感を出すために、メディアにコネクションがあり記者会見をできるなどして、記者会見をあっせんしたりすることもありますし、焦りやはやりの気持ちで記者会見をしたくなる場合もあるかと思います。しかし、よほどの大企業や有名人でない限りは、基本的には行うとしても、最低限のプレスリリースにとどめるべきです。