取引先への支払い「90日後」は違法になる?2027年4月からの60日ルールを弁護士が解説

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企業間取引では、「月末締め・翌々月末払い」「納品後90日払い」といった支払条件が設定されていることがあります。

しかし、2027年4月1日から、製造委託やシステム開発、修理、業務の再委託、運送委託など一定の取引について、原則として給付を受領した日から60日以内に代金を支払うことを求める新たなルールが施行されます。

これが、独占禁止法上の「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」、いわゆる「支払告示」です。

支払告示は、取適法の資本金・従業員数などの規模要件から外れる取引にも適用される可能性があります。そのため、「当社は取適法の対象外だから、支払サイトは従来のままでよい」とは限りません。

本稿では、2027年4月から始まる60日ルールの内容と、企業が契約書・発注書・経理フローについて確認すべきポイントを解説します。

1 なぜ支払条件のルールが変更されるのか

2026年1月1日、従来の下請法を改正した「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「取適法」が施行されました。

取適法では、対象となる製造委託等について、物品等を受領した日から60日以内に支払期日を定めることが求められています。

もっとも、取適法の適用対象は、委託事業者と中小受託事業者の資本金や従業員数など、一定の規模要件によって画されています。

このため、取引の実態として受託事業者の立場が弱く、長期間の支払い猶予を事実上受け入れざるを得ない場合でも、規模要件によって取適法の対象外となるケースがありました。

そこで、取適法の対象とならない取引についても、受託事業者に支払繰延べの負担を一方的に押し付ける行為を規制するため、独占禁止法上の支払告示が設けられました。

公正取引委員会は、2026年9月2日、約束手形の利用廃止も踏まえ、事業者団体などに対して、支払サイトの短縮や現金払いへの移行を要請しています。

参考:約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について(公正取引委員会)

2 2027年4月から始まる「支払告示」とは

支払告示は、製造委託等を行った委託事業者が、受託事業者に対し、正当な理由なく、給付を受領した日から60日を経過した後も代金を支払わないことを禁止するものです。

役務提供委託や特定運送委託の場合には、物品の受領日ではなく、委託した役務の提供を受けた日が起算点になります。

重要なのは、取適法とは異なり、支払告示の適用対象となる委託事業者・受託事業者について、資本金や従業員数による一律の規模要件が設けられていないことです。

そのため、次のような理由だけで支払告示の対象外と判断することはできません。

  • 発注者が中小企業である
  • 受注者の資本金が大きい
  • 発注者と受注者の資本金が同程度である
  • 取適法の資本金・従業員数要件に該当しない
  • 契約書に90日後払いと記載している

これまで取適法の対象外として処理してきた取引についても、2027年4月以降は改めて確認が必要です。

参考:支払告示本文(公正取引委員会)

3 どのような取引が対象になるのか

支払告示の対象となるのは、取適法に定められた「製造委託等」です。

主な対象は次の5種類です。

対象取引具体例
製造委託自社製品の部品や容器、パッケージ等の製造を外注する場合
修理委託顧客から請け負った機械や車両等の修理を別の修理業者へ委託する場合
情報成果物作成委託ソフトウェア、ゲーム、デザイン、映像、設計図等の作成を委託する場合
役務提供委託顧客へ提供するメンテナンスや清掃等の業務を別の事業者へ再委託する場合
特定運送委託顧客に引き渡す商品等の運送を運送事業者へ委託する場合

一方、完成済みの汎用品を通常の売買取引として購入する場合など、単純な商品の売買は原則として支払告示の対象ではありません。

また、すべての業務委託契約が当然に対象となるわけでもありません。契約書の名称ではなく、実際に委託している業務の内容から判断する必要があります。

4 受託事業者の「取引上の地位」も判断要素になる

支払告示は、製造委託等を受けた事業者のうち、その取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる事業者を適用対象から除外しています。

取引上の地位が劣っているかどうかは、単に会社の規模だけで決まるわけではありません。

公正取引委員会の運用基準では、次の事情を総合的に考慮するとされています。

  • 受託事業者の委託事業者に対する取引依存度
  • 委託事業者の市場における地位
  • 受託事業者が他の取引先へ変更できる可能性
  • 委託事業者との取引の重要性
  • 両社の事業規模
  • 受託する商品・技術・サービスの希少性
  • 委託事業者との取引のために行った設備投資等

受託事業者の資本金が発注者と同程度であっても、特定の発注者に対する取引依存度が高い場合などには、支払告示の対象となる可能性があります。

反対に、受託事業者が独自性・希少性の高い技術を持ち、取引先を容易に変更できる場合には、その地位が劣っていないと判断されることもあります。

5 60日の起算点は「請求書の受領日」ではない

実務上、最も注意すべきなのは60日をいつから数えるかです。

原則的な起算点は、次のとおりです。

  • 物品や成果物については、委託事業者が給付を受領した日
  • 役務提供・特定運送については、委託した役務の提供を受けた日

請求書の発行日や受領日、月末の締切日から60日を計算するわけではありません。

したがって、次のような社内事情によって起算点を後ろにずらすことは、原則としてできません。

  • 受託事業者から請求書が届いていない
  • 社内の検収処理が終わっていない
  • 担当部署から経理部への連絡が遅れた
  • 月末の請求締切に間に合わなかった
  • 支払申請について上司の承認が下りていない

納品日・役務提供日と、請求書・検収・支払処理を連動させる仕組みが必要になります。

6 「月末締め・翌々月末払い」は問題になるのか

支払サイトは、月単位の名称ではなく、実際の給付受領日から支払日までの日数で判断します。

例えば、1月5日に商品を受領し、「月末締め・翌々月末払い」として3月31日に支払う場合、受領日から支払日まで60日を超えます。

このような支払条件は、支払告示の対象取引について正当な理由がなければ、2027年4月以降、独占禁止法上問題となる可能性があります。

公正取引委員会の運用基準でも、問題となり得る例として「毎月末日納品締切、翌々月10日支払」が挙げられています。

また、「月末検収締め・翌月末払い」という条件であっても、社内の検収手続が遅れた結果、給付受領日から60日を超えれば問題となり得ます。

そのため、単純に契約書の表現だけを見るのではなく、最も早い納品日から実際の支払日までの日数を確認する必要があります。

7 契約書に「90日後払い」と合意すればよいのか

支払告示には、「正当な理由」がある場合の例外があります。

公正取引委員会の運用基準では、正当な理由の例として、次のような場合が挙げられています。

  • 給付内容が委託内容と異なるなど、受託事業者側に責任がある場合
  • 取引開始時に十分な協議を行い、取引上の合理的理由に基づいて支払条件を合意している場合
  • 受託事業者があらかじめ同意し、かつ、支払遅延によって通常生ずる損失を委託事業者が負担する場合
  • 給付の性質上、高度な検査や一定期間の確認が必要な場合
  • 60日目が金融機関の休業日に当たり、翌営業日に支払う場合

しかし、契約書に「納品後90日払い」と記載し、形式的に署名を得ただけで、当然に正当な理由が認められるわけではありません。

運用基準では、合意とは当事者の実質的な意思が合致し、十分な協議の上で受託事業者が納得していることを意味するとされています。

発注者が一方的に作成した契約書を提示し、受託事業者が取引を失うことを恐れて受け入れただけの場合には、実質的な合意があったとは評価されない可能性があります。

また、60日を超える支払条件には、取引の実態に即した合理的な理由が必要です。単に「従来からこの支払サイトを使用している」「当社の経理処理が翌々月になる」といった事情だけで正当化できるとは限りません。

参考:支払告示の運用基準(公正取引委員会)

8 違反した場合はどうなるのか

支払告示は、独占禁止法上の「特定の不公正な取引方法」です。

違反行為が認められた場合には、公正取引委員会による調査や排除措置命令等の対象となる可能性があります。

さらに、次のような実務上の不利益も考えられます。

  • 取引先から支払条件の是正を求められる
  • 過去の支払状況について調査・説明を求められる
  • 契約書や発注フロー全体の見直しが必要になる
  • 取引先や金融機関からコンプライアンス上の問題を指摘される
  • 行政処分等が公表され、信用に影響する
  • 受託事業者との取引関係が悪化する

支払期日を長く設定することは、一時的には発注者の資金繰りに有利です。

しかし、その負担を取引上弱い立場にある受託事業者へ一方的に転嫁すれば、公正な取引を阻害する行為として規制されることになります。

9 企業が2027年4月までに確認すべき事項

①すべての委託取引を一覧化する

製造、修理、システム開発、デザイン、動画制作、メンテナンス、運送など、自社が外部事業者へ発注している取引を洗い出します。

契約書の名称が「業務委託契約」「請負契約」「基本取引契約」であるかではなく、実際の業務内容を確認することが重要です。

②取適法と支払告示の適用関係を確認する

まず取適法の対象となるかを確認し、取適法の規模要件に該当しない場合にも、支払告示が適用される可能性を検討します。

「取適法対象外」と判定した時点で確認を終えないことがポイントです。

③給付受領日から実際の支払日までを計算する

請求書の締切日ではなく、個々の給付を受領した日から支払日までを計算します。

月末締め・翌々月払いを採用している企業は、月初に納品された場合に60日を超えないかを特に確認する必要があります。

④基本契約書・発注書の支払条項を改定する

例えば、支払条項を次のような形に変更することが考えられます。

委託料は、毎月末日までに受領した給付について、翌月末日までに受託者指定の銀行口座へ振り込む方法により支払う。

もっとも、この条項でも実際の検収や経理処理が遅れれば、60日を超える可能性があります。契約書の改定だけでなく、実際の運用も同時に変更する必要があります。

⑤納品・検収・請求・支払を連動させる

現場担当者、購買部門、法務部門及び経理部門の間で、納品日や役務提供日が共有される仕組みを整備します。

請求書が届かなければ納品の事実を経理部門が把握できないという運用は、支払遅延の原因になります。

⑥支払サイト短縮による資金繰りへの影響を確認する

支払日を90日後から60日以内に変更すれば、変更時期には支払いが集中する可能性があります。

必要に応じて、金融機関との融資枠、運転資金、キャッシュフロー計画についても早めに検討すべきです。

10 まとめ――取適法の対象外でも支払条件の再確認が必要

2027年4月1日から施行される支払告示により、取適法の規模要件に該当しない製造委託等についても、正当な理由なく給付の受領から60日を超えて代金を支払わない行為が禁止されます。

特に注意すべきポイントは次のとおりです。

  • 取適法の対象外でも支払告示が適用される可能性がある
  • 資本金や従業員数による一律の規模要件はない
  • 製造、修理、情報成果物作成、役務提供及び特定運送の委託が対象となる
  • 60日の起算点は原則として給付受領日・役務提供日である
  • 請求書の受領日や社内の締切日から数えるわけではない
  • 月末締め・翌々月払いは60日を超える可能性が高い
  • 契約書上の形式的な合意だけでは、正当な理由にならない
  • 契約書だけでなく、納品・検収・請求・支払の社内フローも見直す必要がある

「昔からこの支払条件で取引している」という理由だけで、従来の運用を続けるのは危険です。

2027年4月の施行直前に慌てないよう、発注先一覧、基本契約書、発注書、支払サイト及び経理システムの確認を早めに進めることが重要です。

※本稿は一般的な法制度の解説であり、個別の契約や取引についての法的助言ではありません。支払告示の適用対象や支払条件の変更については、個別の取引内容を踏まえた判断が必要です。