【弁護士が徹底解説】中居正広氏と元フジテレビ社員との間のトラブルから見る、「守秘義務」と企業のトラブル予防

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はじめに

 本稿は、中居正広氏と元フジテレビ社員との間のトラブルという現在も係争中の案件を題材にしています。弊所として同トラブルについては意見や見解、価値判断はあるものの、本稿では客観的な事実関係から「守秘義務」についての考察のみを行います。

 そのため、本項は、中井氏あるいは元フジテレビ社員についての評価や意見を述べるものではない点はあらかじめ述べておきます。

1. 守秘義務に関する一般的な解説

 守秘義務とは、ある情報を知った者がその情報を第三者に漏らさないよう義務づけられる法的な原則です。守秘義務は主に契約や法律、職務上の信頼関係に基づいて成立し、その範囲や適用は状況により異なります。守秘義務を守ることは、個人や企業の信頼性を守り、社会的秩序を保つために極めて重要です。

 守秘義務は、特に以下のような形で発生します。


① 契約による守秘義務

 企業間や個人間の契約において、特に「秘密保持契約(NDA)」を交わすことが一般的です。また、昨今では雇用主と従業員の間で雇用契約書のなかで守秘義務を締結するケースも増えてきています。これにより、ビジネスの秘密、技術情報、顧客情報などが保護され、契約違反があった場合には法的責任が生じます。

 刑事事件や男女トラブルなどの示談において、プライベートで外部に漏らされることで羞恥心をあおられたり社会的評価の低下につながりかねない事項について拡散しないように合意書で守秘義務を定めるものもあります。

② 職務による守秘義務

 特定の職業においては、職務上知り得た情報を守る義務が強く求められます。弁護士、医師、公務員、報道機関の記者など、特に信頼される立場の職業においては、守秘義務が強く適用されます。

③ 法律による守秘義務

 個人情報保護法や会社法など、法律によっても守秘義務が課せられることがあります。特に個人情報保護法では、個人情報の取り扱いに厳しい規制があり、企業はその遵守を徹底する必要があります。また、間接的にはなりますが、不正競争防止法や刑法上の背任罪となる可能性があります。


 守秘義務を守らない場合、法的な罰則や損害賠償請求が生じることがあります。例えば、営業秘密が漏洩した場合、企業はその損害を補償する責任を負うことになります。また、場合によっては上記の通り不正競争防止法違反や背任の罪で刑事罰が科されることもあり、守秘義務違反は非常に重い法的結果をもたらす可能性があります。

 守秘義務の重要性は、情報の漏洩によって発生するリスクの高さにあります。特に、個人情報やビジネス上の秘密が漏れると、その影響は数年にわたって企業や個人に対して重大な損害を与えることがあります。また、情報漏えいには不可逆性があり一度漏れたら原状回復ができないため、一度漏れたらお終いという側面があります。

 このため、守秘義務は企業経営においても個人の生活においても非常に重要な要素となっています。

 ただし、守秘義務違反については、実際には守秘義務違反を追及する側において、守秘義務を相手が違反したこと(情報を流出させたこと)とそれによる損害額を特定(具体的金額を証拠をもって証明する必要があります)する必要があるので、守秘義務違反による責任追及は契約を定めていたとしても難しい面があります。

2. 中居正広氏と元フジテレビ社員との間のトラブルについて

 中居正広氏と元フジテレビ社員との間で発生したトラブルについて、現時点で確認されている事実を整理し、守秘義務の観点から分析します。
 中居正広氏は、長年にわたりフジテレビの看板司会者として活動しており、彼の人気や影響力は非常に高いものです。これに対して、元フジテレビ社員A氏は、フジテレビを退職後、メディアや公私にわたり中居氏との関係について公にすることを示唆しました。この件は、いくつかのメディア報道によって浮き彫りになり、トラブルに発展しました。

 最初に問題となったのは、A氏が退職後に行ったメディア出演であり、そこでは中居氏に関する詳細なプライベート情報が語られたとされています。具体的には、仕事上でのエピソードや個人的な交流に関する情報が含まれており、その一部は守秘義務に触れる内容だったと指摘されています。

 報道やネット上の論争は、性加害の有無という切り口からが中心であり、守秘義務という観点から論じられているものは少ないという認識です。
 元社員A氏が語った内容について、守秘義務については、中井氏との示談内容としての守秘義務とフジテレビとの雇用契約上の守秘義務の2つの面から検討する必要があります。本項では、中井氏との示談としての守秘義務については、示談契約の詳細が明らかになっていないため検討は行いません。

 フジテレビがA氏と締結していたであろう守秘義務に違反しているかどうかについては、一般の企業の運営や我々の日常生活にも関わるものであるので、詳細に見ていきたいと思います。なお、もしフジテレビがA氏と守秘義務を定める合意をしていないことはありえないので、これはあるという前提で考えます。万が一、合意がない場合には顧問弁護士は引退することをお勧めします。

 一般的には、A氏がフジテレビ在職中に知り得た情報を外部に漏えいしてはいけない義務があり、中井氏との間では示談が成立している以上、プライベートとしての問題は解決しているため、今回の発端となる情報の流出は企業の秘密にかかわるもので、仮にA氏によるものと特定できれば、守秘義務違反となる可能性があります。A氏が守秘義務に違反したと認定された場合、フジテレビ側から損害賠償を求められることも考えられます。

 ただし、守秘義務違反については、上記の通り、流通経路や損害額の特定という面で法律上の立証で超えるべきハードルが高いので、フジテレビや中井氏の側の視点に立てばA氏にいいようにやられているという構図ができているのではないでしょうか。逆に、A氏の反論としては、公益性を主張すると思われますが、これはA氏に立証責任があります。中井氏との間では示談が成立している以上、A氏は中井氏との間でのトラブルを超えて、フジテレビが組織的に性加害を助長させていたというところまで立証する必要がありますが、これの立証はかなり難しいと思われるので、フジテレビがA氏の守秘義務違反を立証できればA氏としては反論がかなり難しくなると思われます。

3. 守秘義務が一般の人でも問題になる場面について

 守秘義務は、芸能界や企業だけでなく、日常生活の中でも様々な場面で重要な役割を果たしています。以下に、一般の人々が関わる可能性のある守秘義務の違反事例をさらに深堀りし、それがどのように問題になるかを詳述します。

例1:職場における情報漏洩

 職場での守秘義務は、企業の競争力や顧客信頼を守るために重要です。例えば、職場で得た顧客情報や業務の詳細を外部に漏らすことは、企業に損害を与える行為と見なされます。ある社員が、顧客リストや販売戦略を同業他社に提供したことで、企業の経営に深刻な影響を与えたケースが報告されています。このような行為は、守秘義務違反と見なされ、法的措置が取られました。また、会社のファイルやUSBなどを持ち出してこれを噴出することも守秘義務違反に該当します。

 企業内での情報漏洩は、法的責任だけでなく、企業の名誉にも大きな影響を与えるため、社員は守秘義務を守ることが求められます。また、企業が守秘義務を遵守しない場合も、顧客からの信頼を失い、最終的にはビジネスの存続に影響を及ぼします。特に個人情報保護法にて、個人情報保護委員会に報告しなければならず、同会から様々な処分を下されることがあります。

例2:SNSや個人のプライバシーの漏洩

 SNSを利用して個人情報を発信することが一般化していますが、無意識に他人のプライベート情報を公開することで、守秘義務違反に繋がる場合があります。例えば、家庭内で知り得た情報をSNSで公開したことで、家庭内の信頼関係が崩れ、法的トラブルに発展するケースがあります。昨今では、いわゆるバイトテロというような形で、悪ふざけで、守秘義務違反が生じていわゆる炎上につながるということも散見されます。

 SNS上での情報漏洩が守秘義務違反とされることがあることを理解することは、個人が社会的責任を果たすために必要な視点です。特に個人情報や他人のプライベート情報に対しては、慎重に扱うことが求められます。

 逆に個人としては、意識せずに行った投稿が原因で巨額の損害賠償を請求されるケースもあり、当該債務は、破産でも免責されない可能性があります。

4. 企業における守秘義務違反の予防策

 守秘義務違反を未然に防ぐためには、個人や企業がどのような対策を講じるべきかを考えることが非常に重要です。守秘義務を守るための具体的な予防策には、契約書やポリシーの整備、情報管理体制の構築、従業員教育などがあります。

①明確な契約書の作成

 契約書において守秘義務を明確に定めることは、最も基本的で重要な予防策です。特に企業間での取引や、従業員との雇用契約においては、秘密保持契約(NDA)を交わすことが一般的です。この契約には、守秘義務の範囲や期間、違反した場合の罰則などを明確に記載することで、双方の責任を明文化します。

 契約書の作成に際しては、守秘義務の対象となる情報(顧客情報、営業秘密、技術情報など)を具体的に列挙し、情報漏洩を防ぐための措置や手順を定めることが重要です。また、契約終了後も守秘義務が継続することを明記し、情報が漏洩しないように注意を促します。

 また、上記の通り、守秘義務違反について実際に法的主張をする場合の困難さもあると述べましたが、この点のケアについては実際に弊所に契約書の作成をご依頼いただければと思います。

②情報管理体制の整備

 企業においては、情報の管理体制を整備することが重要です。物理的な管理だけでなく、デジタル情報の管理についても細心の注意が必要です。企業は、機密情報へのアクセスを制限し、重要な情報はパスワードで保護するなど、情報の取り扱いについて具体的なガイドラインを設けるべきです。

 また、情報が漏洩した場合に迅速に対応できる体制を整えることも必要です。例えば、データ漏洩が発生した場合の連絡先や、漏洩後に取るべき対応策(関係者への報告、法的措置の検討など)を事前に決めておくことが大切です。

 上記の通り、個人情報保護委員会の対応は迅速な報告が必要であったり、管理体制がどうだったか如何で実際に行われる処分の重さも変わってきます。

③ 定期的な従業員教育の実施

 従業員に対して守秘義務に関する教育を定期的に実施することも予防策として効果的です。特に新入社員や異動した社員に対しては、守秘義務の重要性を理解させ、情報漏洩のリスクとその影響についての意識を高めるための教育が求められます。

 教育内容としては、守秘義務に関する法律や企業内の規則を説明するだけでなく、過去に発生した情報漏洩事例を紹介し、情報漏洩がどのようにして発生し、それがどれほど深刻な結果を招くかを具体的に示すことが効果的です。

 とりわけ、昨今においては、SNSの軽率な使用による情報漏えいには最新の注意が必要です。

④ 退職時の情報整理と管理

 退職する社員には、機密情報を持ち出さないように厳格にチェックする体制を設けることが大切です。退職時に持ち出す情報がないかを確認し、退職者から返却すべき機器(PCやスマートフォンなど)に保存された情報を取り扱う際の手順を定めておくと、退職後の情報漏洩リスクを減らせます。

5. 終わりに

 以上のように、中井氏と元フジテレビ社員との間のトラブルは、性加害の有無、名誉棄損の有無、第三者委員会の公正性の有無と存在意義、フジテレビにおける企業風土と実際に上納システムはあったのかという法的にも事実的にも様々な問題があります。

 しかし、これはフジテレビが企業管理として社員の守秘義務を徹底できていれば今回のような事態が発生すること自体を防げた事案と思われます。A氏や周辺の団体の主張が仮に事実だったとして、それを隠ぺいすることの是非はさておき、清濁含めて内部にとどめて管理するのがいわゆる予防法務です。

 企業の経営者としては、企業のしくじり事例として守秘義務違反について検討しなおす機会かと思いますし、サラリーマンや被雇用者の立場からも巨額の損害賠償を避けるにはどうすればいいか余計なトラブルに巻き込まれないようにするためのSNSの使い方や向き合い方を考えるいい事案かと思います。

文責 松本

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