【Xデーまであと1日!】予言について、たつき諒氏に法的責任は生じる?【漫談コラム】

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1 はじめに

2025年7月5日に大災害が発生するという予言がSNSを通じて広まり、多くの人々が恐怖と混乱に包まれました。今回は、その影響についての法的な責任の所在について軽く分析したいと思います。本稿は、ライトな漫談としての投稿なので、事実関係や理論について厳密にリサーチしている訳ではないですが、ラジオのエンタメ系の番組を聞くような感じで読んでいただければと思います。

そもそも、この予言を発信したのは、漫画家のたつき諒氏(以下「たつき氏」と言います。)とされています。同氏の漫画1999年に発売された『私が見た未来』で記載された未来への暗示が、2011年3月の大震災などを予言していたなどとして、注目されたことがきっかけで同書籍が注目・分析され、同書籍ので2025年7月の日本の大災害(困難など諸説ありますが、本稿では大災害と表記します。)が来るのではとまことしやかに騒がれました。

その後、便乗したのか真偽は不明ですが、少なくとも「商業出版」にて、『私が見た未来』の完全版が発売され、今度は、明確に2025年7月5日4時18分に大災害が来るという予言がたつき氏により明言されました(以下「本件予言」と言います。)。私はこの時点で、たつき氏が明日の予言について、対価を得て発言したと考えています。

その後、たつき氏は、本件予言が大注目される中、2025年6月に『天使の遺言』を刊行して『私がみた未来』についての補足を行い、本件予言について2025年7月5日と明言したわけでないと「夜逃げモード」に入りました。

本件予言が当たるかどうかは、明日答えがでます。仮に、何もなかったとき、たつき氏の本件予言についての社会的な責任ついて「予言はエンタメなんだから信じる側の問題」「ある程度社会的に影響が出ている以上もっと早く撤回すべきだった」などの個人的な価値観が入り混じる議論が生じることは、容易に想像できますが、たつき氏に法的な責任は生じるのでしょうか。

弊所の海外の案件で、当該予言のために相手方の来日がキャンセル延期されたことを契機に少し考えてみましたが、専門家以外にも面白い話と思ったので、小話として読んでみてください。なお、本稿は同経緯から、たつき氏に対して「勘弁してくれよ」という気もちもあり、多少皮肉めいた表現もあるかもしれないですが、その点はご容赦いただければ幸いです。

2 予言が社会的に注目されたことで現実的に起きていること

本件予言の影響として、実際に言われているのは、航空会社の減便です(https://www.yomiuri.co.jp/national/20250602-OYT1T50019/)。航空会社の減便は当然、ホテルのキャンセルもセットかと思われます。上記の通り、一部の国では政府が本件予言に基づく警告を出しているとして、弊所の案件でもそれを理由に来日がキャンセルされ案件の進行が遅滞しております。

そのため、本件予言は、少なくとも、観光業界に対しては、少なからぬ影響を与えていると思われます。また、本件予言により、精神的に不安になり狼狽した人も多々いるかと思います。

3 問題となる法律の前提

実際に、海外の顧客の団体客が予言を理由に急遽キャンセルしたとして、旅行会社が弊所に相談に来た場合には、たつき氏への法的責任の追及ではなく他の手段を選択すると思いますが、それでは面白くないので、たつき氏の責任追及をしたいという指定があったとして分析すると、まず、①不法行為に基づく損害賠償ができないか、②拡散したメディアに対して不法行為に基づく損害賠償を請求できないか、③偽計業務妨害罪で刑事告訴か騒乱罪での刑事告発ができないかということをまず検討するだろう。

4 各検討

①と②について

  • 不法行為の要件
    民法第709条は、「不法行為」に基づく損害賠償を規定しています。その成立のためには、故意または過失、損害の発生、因果関係の存在が最低限必要です。
  • 故意
    予言はあくまで予言なので、故意に虚偽の情報を流したということはできないので故意で責任を追及はできないでしょう。
  • 過失
    そうすると、たつき氏が自身の予言が拡散されている状況下で自身の予言の信ぴょう性に関する発信をすべきだったか、具体的には『天使の遺言』で述べたようなことが、予言の直前時期に夜逃げのようにされるのではなく、もっと早い時点でされるべきではなかったのかという点です。
    確かに、2021年で本件予言のブームに便乗する形で、『私が見た未来』完全版を出版してさらに予言の拡散を助長してかつ金銭的な利益を得ていることから(先行行為)、本件予言のXデーが近づいてきた段階で、遅くとも2025年1月時点で、撤回や訂正の発信をすべきであったということもできるかもしれません。
    ただ、現実的にはあくまで予言という前提での発信であるので、完全版の発行を根拠に、予言の影響を回避すべく発信を行う義務が発生していたとは認められないでしょう。
  • 損害と因果関係
    仮に、たつき氏やメディアに何らかの過失が認められたとしても、旅行のキャンセルなどは、海外の政府の考え方や、本件予言に便乗した予言も立たされているなかで、誰の発信が顧客を不安にさせてキャンセルさせたのかは様々な要因が考えられるので、損害との因果関係の立証も困難でしょう。
    また、名誉棄損などでも問題になる争点ですが、精神的損害については裁判上は金銭的に換算する必要がありますが、それが困難という事情も請求の困難さを助長します。
  • 結論
    以上の観点と、表現の自由は広く守られるべきという点からも、本件予言やその拡散について、たつき氏や各メディアに民事的な法的責任を追及するのは困難でしょう。

③について

  • 偽計業務妨害罪
    刑法233条は偽計を用いた業務妨害を取り締まっています。しかし、偽計を立証するのは捜査当局側で、たつき氏が本件予言が虚偽ではないという立証をしなければならないという立場ではないため、その立証は事実上不可能なので、偽計業務妨害による刑事告訴は困難でしょう。
  • 騒乱罪
    刑法106条は多数で集合して脅迫する行為を取り締まっています。そもそも多数ということが要件となっていますが、たつき氏とメディアは通謀しているということは難しいですし、時間的場所的にも離れている当事者を多数と言えるのかなど、法的に乗り越えるべきハードルが高いことからも、騒乱罪での刑事告発も困難でしょう。

5 総括

以上から、本件予言について、たつき氏に何かしら法的な責任を追及することは困難でしょう。しかしながら、法的な責任がないからと言って何をしてもいいものではありません。たつき氏の予言についてはエンタメ的な側面が非常に強いので、何か社会的に大きな悪影響が明確に出たという訳ではありません。

しかし、法的に許されているから、問題ないからといって、個人が野放図に行動すれば、当然新しい規制ができますし、社会はより住みにくいものになります。本件予言は、そのようなことに対する警鐘だったのかもしれません。

文責 松本